レトロウイルス、ヒトTリンパ球向性ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス

レトロウイルス
レトロウイルスは、同じRNAの分子2組と、そのRNAをDNAに変える逆転写酵素をもっている。逆転写酵素によって、このウイルスのRNAがDNAに変わる。そのDNAは、宿主がもつDNAに組み込まれ、プロウイルスDNAに変化する。

 

 

ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV-1)
ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV-1)は、同じRNAの分子を2組と、逆転写酵素をもつウイルスである。このウイルスは、CD4陽性を示すTリンパ球(T細胞)に感染する。

 

 ヒトTリンパ球向性ウイルスの感染経路
ヒトTリンパ球向性ウイルスの感染者の血液などには、感染したTリンパ球が含まれている。それが体内に侵入することによって感染する。

 

 ヒトTリンパ球向性ウイルスの病原性

 

・成人T細胞白血病(ATL)
ヒトTリンパ球向性ウイルスの感染によって、成人T細胞白血病(ATL)が引き起こされる。成人T細胞白血病では、ヒトTリンパ球向性ウイルスに感染したTリンパ球が、腫瘍に変化している。

 

成人T細胞白血病は、感染した母親の授乳によって、キャリアー(保菌者)となった乳児に発病する。この疾患が発病するまでには、感染から40~60年ほどの期間がかかる。

 

また、成人T細胞白血病の発病率は、キャリアー1人あたりで約2~6%であるとされている。

 

・その他の疾患
ヒトTリンパ球向性ウイルスが関与する疾患として、HTLV-1関連脊髄症(HAM)、熱帯性けい性対麻痺(TSP)、関節症、肺病変、ブドウ膜炎などがある。

 

上記のうち、HTLV-1関連脊髄症(HAM)は日本の南九州地方で確認される。また、熱帯性けい性対麻痺(TSP)は、アフリカやジャマイカなどで確認される。この2つは同じ疾患であるとされ、HAM/TSPと合わせて表記される。

 

 

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
ヒト免疫不全ウイルスは、同じRNA分子2組と、逆転写酵素をもつウイルスである。また、HIV-1HIV-2といった種類が存在する。

 

 ヒト免疫不全ウイルスの感染源・感染経路
ヒト免疫不全ウイルスの感染者が、このウイルスの感染源となる。このウイルスの感染経路には、血液感染、母子感染、性交による感染などがある。

 

 ヒト免疫不全ウイルスの病原性
ヒト免疫不全ウイルスは、CD4陽性を示すTリンパ球(T細胞)とマクロファージに感染する。ヒト免疫不全ウイルスに感染することで起こる感染症をHIV感染症という。

 

このウイルスに感染した場合、頭痛、発熱、筋痛、全身の倦怠感、関節痛などのインフルエンザに似た症状が数日間起こる。それから免疫反応によって、血液中に含まれるウイルスの数が減り、症状もなくなる。

 

このように、無症状の状態になったヒト免疫不全ウイルス感染者のことを無症候性キャリアー(AC)という。

 

無症状の状態が10年ほど続いた後に、HIV感染症が発病する。発病すると、エイズ関連症候群(ARC)が起こり、やがてエイズ(AIDS)が引き起こされる。

 

・エイズ関連症候群(ARC)
エイズ関連症候群の主な症状には、持続する発熱、リンパ節腫脹、異常な体重減少、慢性の下痢などがあげられる。さらに、この疾患が進行することでエイズが起こる。

 

・エイズ(AIDS)
エイズが起こると、発熱、下痢、体重の減少の他に、別の微生物による日和見感染、神経症状、腫瘍の形成などが合併する形で引き起こされる。このときの日和見感染は、患者の死の直接的な原因になりうる

 

 エイズの治療
日和見感染症に対する化学療法や、抗HIV薬の投与などが、エイズの主な治療法としてあげられる。

 

 ヒト免疫不全ウイルスとエイズに対する予防法
エイズに関する知識をもち、感染を引き起こす行動をなるべく避けることなどが、ヒト免疫不全ウイルスとエイズに対する予防法としてあげられる。