原虫の構造・種類、根足虫類、鞭毛虫類

原虫
原虫は、単細胞の真核生物である。原虫が増殖、分裂、代謝、運動を行う場合、単細胞の状態で行う。

 

 原虫の構造
原虫がもつ細胞質は、いくつかの細胞小器官を含んでおり、核、小胞体、ゴルジ装置、ミトコンドリア、食胞などがあげられる。

 

原虫の細胞質の表面は、細胞膜によっておおわれている。また、原虫には細胞壁がない。原虫の細胞膜の外側には、多糖類を含んでいる層である細胞外被(グリコカリックス)がある。

 

原虫の細胞質のうち、外側の部分を外質、内側の部分を内質という。外質では、食事や運動が行われる。また、外質のうちの一部は、原虫がもつ綿毛、偽足、波動膜などを構成している。

 

 原虫の種類
原虫は、さまざまな環境に存在している。そして、原虫の中には人体に対して病原性を示すものもいる。原虫の種類として、根足虫類鞭毛虫類胞子虫類繊毛虫類があげられる。

 

 

根足虫類
根足虫類の原虫には、赤痢アメーバ大腸アメーバアカンスアメーバネグレリア・フォーレリが存在する。

 

赤痢アメーバ
赤痢アメーバは、アメーバ赤痢という疾患を引き起こす根足虫類の原虫である。また、水系感染を起こすこともある。

 

 赤痢アメーバの形態
赤痢アメーバには、栄養型嚢子(シスト)との2種類の形態がある。赤痢アメーバの発育の時期によって、どちらの形態になるかが異なる。

 

・栄養型の赤痢アメーバ
栄養型の赤痢アメーバでは、約20~40μmの大きさとなっている。細胞質の中に核を1つ含んでおり、細胞質そのものが、外側の外質と内側の内質とに区切られている。

 

急性のアメーバ赤痢の患者の腸内では、栄養型の赤痢アメーバが存在している。偽足を使って運動し、赤血球の貪食を行う。

 

・嚢子(シスト)の赤痢アメーバ
嚢子(シスト)の赤痢アメーバでは、約5~20μmの大きさとなっている。細胞質の中に核を1~4つ含んでおり、運動は行わない。

 

嚢子(シスト)の赤痢アメーバは、周囲の環境が良い条件になった場合、栄養型の赤痢アメーバに変化する。

 

栄養型の赤痢アメーバに比べて、嚢子(シスト)の赤痢アメーバの方が、強い抵抗力をもっている。嚢子(シスト)の赤痢アメーバは、消毒液に強く、水の中などで長い間生存し続けられる。

 

慢性のアメーバ赤痢の患者の糞便には、嚢子(シスト)の赤痢アメーバが多く存在する。

 

 赤痢アメーバの培養
赤痢アメーバの培養に必要なものとして、赤痢アメーバに共生できる細菌と米粉とがあげられる。また、赤痢アメーバの純培養は、合成培地を使うことで可能になる。

 

 赤痢アメーバに対する予防法
手洗いを心掛けるなど、衛生環境に気をつけることが、赤痢アメーバに対する予防法としてあげられる。

 

 赤痢アメーバに対する治療
赤痢アメーバに対する治療法として、化学療法薬の使用があげられる。

 

大腸アメーバ
大腸アメーバは、病原性をもたない根足虫類の原虫である。嚢子(シスト)の大腸アメーバがもつ核は、1~8個となっている。また、嚢子(シスト)の赤痢アメーバよりもサイズが大きい。

 

大腸アメーバは細菌を食べて生活している。また、大腸アメーバは腸管に入り込む性質をもたない。

 

アカンスアメーバ
アカンスアメーバは、水系感染を起こす根足虫類の原虫である。嚢子の形成を行うことができる。また、長い間生存することができ、抵抗力も備わっている。池や川などに存在する。

 

 アカンスアメーバの病原性
コンタクトレンズを使用している場合に、角膜炎を引き起こす。

 

ネグレリア・フォーレリ
ネグレリア・フォーレリは、水系感染を起こす根足虫類の原虫である。川や湖などに存在し、嚢子を形成する。また、抵抗性が備わっており、長い間生き続けられる。

 

 ネグレリア・フォーレリの病原性
ネグレリア・フォーレリは、髄膜炎を引き起こす。2日~1週間ほどの潜伏期をおいて、発熱、嘔吐、頭痛などの症状が現れる。

 

 

鞭毛虫類
鞭毛虫類の原虫には、トリコモナス属リーシュマニア属トリパノソーマ属ランブル鞭毛虫が存在する。

 

トリコモナス属
トリコモナス属の鞭毛虫類には、膣トリコモナス口腔トリコモナス腸トリコモナスが存在する。膣トリコモナスは病原性をもっている。

 

一方、口腔トリコモナスと腸トリコモナスの場合、病原性をもたないか、病原性がわずかである。

 

 膣トリコモナス
膣トリコモナスは、洋ナシのような形をした鞭毛虫類の原虫である。さまざまな地域に存在している。

 

膣トリコモナスが女性の尿道や膣に寄生した場合、膀胱炎、尿道炎、膣炎などの疾患を発病する。男性の場合では、非淋菌性尿道炎という疾患が引き起こされる。

 

膣トリコモナスは、性交によって感染し、女性の方が男性よりも感染を起こしやすい。

 

・膣トリコモナスの培養
膣トリコモナスの純培養は、人工培地で可能である。

 

・膣トリコモナスに対する予防法と治療
膣トリコモナスに対する予防法・治療法として、化学療法薬の使用があげられる。

 

リーシュマニア属
リーシュマニア属の鞭毛虫類には、ドノバンリーシュマニア熱帯リーシュマニアが存在する。

 

 ドノバンリーシュマニア(内臓リーシュマニア、カラ・アザールリーシュマニア)
ドノバンリーシュマニア(内臓リーシュマニア、カラ・アザールリーシュマニア)は、熱病を起こす鞭毛虫類の原虫である。この原虫によって起こる熱病は、脾腫(ひしゅ)の発生を特徴としている。

 

ドノバンリーシュマニアは、サシチョウバエという昆虫を媒介動物とする。

 

ドノバンリーシュマニアの体の中心部には、核と運動基質とがそれぞれ含まれている。体の大きさは約2~5μmほどであり、球形や楕円形に近い体形をしている。

 

・ドノバンリーシュマニアの培養
人工培養によって培養できる。培養されたドノバンリーシュマニアは、鞭毛(べん毛)をもち、細長い体形になる。

 

 熱帯リーシュマニア
熱帯リーシュマニアは、皮膚リーシュマニア症(東洋瘤腫)という疾患を引き起こす鞭毛虫類の原虫である。サシチョウバエという昆虫を媒介動物とする。

 

・熱帯リーシュマニアに対する治療
熱帯リーシュマニアに対する治療法として、化学療法薬の使用があげられる。

 

トリパノソーマ属
トリパノソーマ属の鞭毛虫類には、睡眠病トリパノソーマクルーズトリパノソーマが存在する。

 

 睡眠病トリパノソーマ
睡眠病トリパノソーマは、その名のとおり、睡眠病の病原体となるトリパノソーマ属の原虫である。体の真ん中に核があり、体の形は紡錘形に近い。波動膜をもっており、体の後ろ側から鞭毛(べん毛)が1本出ている。

 

睡眠病トリパノソーマは、ツェツェバエという昆虫を媒介動物とする。また、睡眠病トリパノソーマの種類には、ローデシアトリパノソーマガンビアトリパノソーマが存在する。

 

・睡眠病トリパノソーマの培養
睡眠病トリパノソーマの培養を行う場合、人工培地を使った培養は、困難であるとされている。

 

 クルーズトリパノソーマ(シャーガス病トリパノソーマ)
クルーズトリパノソーマ(シャーガス病トリパノソーマ)は、シャーガス病(アメリカトリパノソーマ症)という熱病を引き起こす鞭毛虫類の原虫である。サシガメという吸血を行う昆虫を媒介動物としている。

 

クルーズトリパノソーマは、睡眠病トリパノソーマの形態と同じような形態をもつ。

 

 ランブル鞭毛虫
ランブル鞭毛虫は、水系感染を起こす鞭毛虫類の原虫である。強い抵抗力をもっており、長く生き続けることが可能である。また、嚢子を形成する性質をもつ。川や池などに存在する。

 

・ランブル鞭毛虫の病原性
ランブル鞭毛虫が感染することで、発熱、下痢、嘔吐などの症状が現れる。