炭疽菌、破傷風菌、ボツリヌス菌、ガス壊疽菌群・ウェルシュ菌

炭疽菌
炭疽菌は、グラム陽性を示す、好気性の杆菌である。鞭毛(べん毛)をもたないものの、高温と乾燥に強い抵抗性を示す芽胞を形成する。

 

 炭疽菌の病原性
人に感染する場合は、傷口などから侵入する創傷感染が多い。炭疽菌に感染した場合、感染から12~24時間の間に、悪性の膿胞(のうほう)が体の局部でつくられる。その後、敗血症が引き起こされる。

 

炭疽菌の芽胞を吸い込んだ場合、肺炭疽という疾患を引き起こす。肺炭疽の症状は進行が早く、すぐに死につながる恐れがある。また、炭疽菌の芽胞を含んだ飲食物を摂った場合、腸炭疽という疾患が引き起こされる。

 

 炭疽菌に対する治療法
炭疽菌に対する治療法として、抗生物質の投与があげられる。

 

 

枯草菌
枯草菌は、グラム陽性の好気性杆菌である。莢膜(きょう膜)はもっていないが、鞭毛(べん毛)をもっている。また、強い抵抗性を示す芽胞をもつ。

 

枯草菌には、病原性はない。しかし、ほかの病原性の細菌を調べるときに、枯草菌の芽胞が邪魔になってしまう場合がある。また、枯草菌の1種に含まれる細菌が、納豆をつくる際に使用されている。

 

 

セレウス菌
セレウス菌は、グラム陽性を示す、好気性の杆菌である。芽胞と鞭毛(べん毛)をもっている。セレウス菌は、自然の環境に存在する。また、セレウス菌によって、食中毒が起こる場合がある。

 

 

破傷風菌
破傷風菌は、グラム陽性であり、偏性嫌気性を示す杆菌である。鞭毛(べん毛)と芽胞をもっている。破傷風菌がもつ芽胞は、消毒薬や熱に対して強い抵抗性を示す。

 

 破傷風菌の病原性
破傷風菌は、傷口などから侵入するが、侵入した段階では発病するかどうかは決まっていない。

 

破傷風菌が侵入した場所が、嫌気性の破傷風菌に適した環境になった場合、破傷風菌の芽胞の発芽が起こる。そして、芽胞が栄養型へと変わり、毒素がつくられるようになる。その結果、破傷風が引き起こされる。

 

破傷風が発病すると、咀嚼筋(そしゃくきん)が硬直を起こす。それにより、口を動かせられなくなってしまう。さらに症状は、体の下の方にも進行していく。そして、項部から下半身にかけて、痙攣(けいれん)が引き起こされる。

 

 破傷風菌に対する治療法
抗生物質の投与や血清療法が、破傷風菌に対する治療法としてあげられる。

 

 破傷風菌に対する予防法
破傷風菌に対する予防法として、ワクチンの予防接種があげられる。

 

 

ボツリヌス菌
ボツリヌス菌は、グラム陽性の偏性嫌気性杆菌である。鞭毛(べん毛)をもっている。また、高温に強い芽胞をもつ。

 

 ボツリヌス菌の病原性
ボツリヌス菌によって引き起こされる疾患には、ボツリヌス食中毒乳児ボツリヌス中毒創傷ボツリヌス中毒があげられる。

 

・ボツリヌス食中毒
毒素型食中毒を引き起こすボツリヌス菌は、つくる毒素の免疫原性によってA~Gの7つの血清型に分けられている。

 

 ※免疫原性 … 免疫応答の誘導を行う性質のこと

 

A~Gの7つの血清型のうち、人に起こる食中毒に関する型は、A、B、E、Fとなっている。これらのうち、とくに強い毒力をもつのがAとBである。

 

ボツリヌス菌に汚染された食材の加熱が十分でなかった場合、その食材の中にボツリヌス菌の芽胞が残る。その芽胞は食材の中で発芽し、増殖を行う。さらに、食材の中で毒素を放出する。

 

上記の状態の食材を摂取することで、ボツリヌス食中毒が引き起こされる。この中毒によって、呼吸麻痺や嚥下(えんげ)困難が起こる。

 

ボツリヌス食中毒の場合、発病するまでの時間が短い。また、発病するまでの時間が短いほど、死に至る危険性が高い。

 

・乳児ボツリヌス中毒
ボツリヌス菌がつくる芽胞が、乳児の口から腸管に入った場合、そこでボツリヌス菌の芽胞が発芽し、増殖を行う。さらに、芽胞から毒素が放出され、その毒素によって中毒が引き起こされる。

 

・創傷ボツリヌス中毒
ボツリヌス菌の芽胞が、傷口から体内に入った場合、ボツリヌス菌の芽胞が発芽し、増殖と毒素の生成を行うことがある。この中毒の場合、よほど多くの芽胞が体内に入らない限り、発病に至ることはないと考えられる。

 

 ボツリヌス菌に対する治療法
ボツリヌス菌に対する治療法として、抗毒素血清の注射が行われる場合があるが、発病してからでは無意味となってしまう。

 

 ボツリヌス菌に対する予防法
ボツリヌス菌の毒素は、熱に弱い。そのため、調理の際には、加熱調理をしっかりと行うことが望ましい。また、生のまま食べる食材にも、注意を向けることが大切である。

 

 

ガス壊疽菌群・ウェルシュ菌
ガス壊疽という疾患を引き起こす菌には、ウェルシュ菌などがあげられる。それぞれ、グラム陽性を示す、偏性嫌気性の杆菌である。

 

ガス壊疽を起こす菌のうち、ウェルシュ菌の場合は、人工の培地では芽胞があまりみられない。また、ウェルシュ菌は鞭毛(べん毛)をもっていない。

 

ガス壊疽を起こす菌のうち、ウェルシュ菌以外の菌の場合は、芽胞と鞭毛(べん毛)をもっている。また、ウェルシュ菌を含むガス壊疽菌群は、それぞれ土の中に存在している。

 

 ガス壊疽菌群の病原性
ウェルシュ菌などのガス壊疽菌群は、さまざまな菌体外毒素をつくりだす。この菌体外毒素のほとんどは、タンパク分解酵素、RNA分解酵素、DNA分解酵素などの酵素となっている。

 

ガス壊疽筋群は、創傷感染によって感染する。感染した場所が、ガス壊疽菌群の培養に適した嫌気性の環境に整った場合、感染したガス壊疽菌群のうち1種類以上の菌が、増殖を行う。

 

また、ガス壊疽菌群の増殖と同時に、ガス壊疽菌群の毒素によって、筋肉組織に広い範囲の壊死が起こる。さらに、ガスが発生する。

 

上記の場合では、組織の壊死が、ごくわずかな時間で進んでいってしまう。そのため、なるべく早めに壊死した部分を、広い範囲で切除する必要がある。

 

 ガス壊疽菌群に対する治療法
外科治療によって、毒素に侵された場所をなるべく早く切除しなければならない。また、外科治療に合わせて、化学療法と血清療法も行われる。

 

 ガス壊疽菌群に対する予防法
傷口に壊死がみられるなど、ガス壊疽菌の感染が疑われる場合には、速やかに医師の治療を受けることが望ましい。