非特異的感染防御機構の作用、常在細菌叢(正常細菌叢)、日和見感染症

非特異的感染防御機構の作用
皮膚、気道の粘膜、消化管の粘膜などには、病原体が入り込まないようにするための防御機構が備わっている。

 

これらの防御機構は、特定の病原体だけに作用するのではなく、あらゆる病原体の侵入を防ぐ機構となっている。

 

この防御機構から先へと、細菌などが侵入した場合、それらは白血球系細胞(マクロファージ、好中球など)の食作用によって処理される。

 

 皮膚における感染防御機構
皮膚は、その表面を表皮でおおわれている。表皮は、厚みがあって頑丈な重層扁平上皮である。

 

皮膚のうち、最も表側には角質層が形成されている。角質層の表面は、4週間ほどで垢(あか)となって脱落する。この作用により、微生物の体内への侵入を阻止している。

 

皮膚には、汗腺などが開いている場所(開口部)がいくつも存在している。汗腺から分泌される汗は、皮膚の表面に存在する微生物を洗い落とし、皮膚の状態を酸性に保っている。

 

 気道の粘膜における感染防御機構
気道の粘膜にある上皮細胞の表面には、細い毛がいくつも生えている。この細い毛のことを線毛という。

 

気道の粘膜の表面に存在する埃(ほこり)や微生物などは、線毛の運動によってのどへと送られる。そして、たんとしてのどから排出される。

 

気道の粘膜にある上皮細胞同士の境には、(さかずき)細胞というものが存在する。杯細胞は、線毛の運動による埃(ほこり)などの除去を手助けする。さらに、杯細胞は粘液の分泌を行い、それによって粘膜を守る。

 

病原体が、気道の先の肺胞に侵入した場合、白血球系細胞の食作用によって、その病原体は処理される。

 

 消化管の粘膜における感染防御機構
消化管の粘膜の上皮細胞からは、粘液が分泌される。粘液によって、消化管の粘膜が微生物などから守られている。

 

胃で分泌される胃液などには、消化酵素が含まれている。この消化酵素の作用で、微生物を死滅させることができる。

 

炎症を起こした場所に集まり、炎症に関係する細胞のことを炎症細胞という。炎症細胞が、消化管の粘膜に集合した場合、その炎症細胞は、リゾチームやIgAといった物質をつくる。これらの物質は抗菌作用をもっている。

 

 

常在細菌叢(正常細菌叢)
健康な状態の人の体であっても、腸や皮膚などのさまざまな場所に各種の細菌が集まって定着している。これらの細菌は、宿主と共生する関係を維持し続けている。このような細菌の集まりを常在細菌叢(正常細菌叢)という。

 

体内に侵入した病原体の増殖は、常在細菌叢によって妨げられる。このことから、病原体の感染の防御には、常在細菌叢は重要な存在であると考えられる。

 

・菌交代症
常在細菌叢(正常細菌叢)が、何らかの原因によって傷害されると、常在細菌叢によって増殖できなかった微生物が増殖を行い、その微生物によって疾患が起こる場合がある。このようにして起こる疾患を菌交代症という。

 

仮に、長い期間で抗生物質を多量に投与し続けたとする。この場合、その抗生物質に耐性をもった細菌が過剰に増殖してしまう。その結果、宿主にカンジダ症や腸炎などの疾患が起こる。

 

 

日和見感染症
慢性疾患などで体の免疫力が弱っているとき、本来、感染しなかった微生物に感染することがある。この場合、感染した微生物によって、感染症が引き起こされることがある。

 

上記のように、体の抵抗力が衰えている状態で、健康なときでは感染しなかった微生物に感染し、引き起こされる感染症のことを日和見感染症という。

 

日和見感染症が起こる原因のうち、とくに原因となることが多いものには、常在細菌叢(正常細菌叢)を形成する微生物などがあげられる。