がんの発生機序、二段階説、オンコジン、がん抑制遺伝子
遺伝子の異常によって、「がん」という病気は引き起こされる。
仮に、発がん物質が体内に入り込んだ場合、その発がん物質の標的(目標)となる臓器に発がん物質が入り込む。臓器に入り込んだ発がん物質は、その臓器の核に含まれるDNA(デオキシリボ核酸)と結合する。
上記によって、DNAが発がん物質によって障害を負い、正常な細胞ががん細胞に変えられていくとされる。
二段階説
がんが発生するには、二段階の過程が必要となる。このことを二段階説という。
イニシエーション、イニシエーター
がんの発生における1番最初の段階をイニシエーションという。そして、イニシエーションの段階で発がんに作用する物質のことをイニシエーターという。
イニシエーターは、標的となる細胞のDNAに結合する。その結果、その標的となる細胞のDNAに変異が起こる。
プロモーション、プロモーター
イニシエーションの次の段階のことをプロモーションという。そして、プロモーションの段階で発がんに作用する物質のことをプロモーターという。
プロモーターの働きで、変異した細胞の内部で起こっている変化が元に戻らなくなり、その細胞が自律的に増殖できるようになるとされている。
プログレッション
プロモーションまでの過程によって新しく発生したがん細胞は、ここからさらに成長を行い、その周りに浸潤する。この段階のことをプログレッションという。
上記のように、細胞ががん細胞に変化していく段階は、イニシエーション→プロモーション→プログレッションの順に進行していく。この段階が進行していくなかで、その細胞にある遺伝子の異常や染色体の異常が、段階的に積み重なっていく。
オンコジン(がん遺伝子)
がんの発生を促すように作用する遺伝子をオンコジン(がん遺伝子)という。
プロトオンコジン
正常な細胞の中にも、オンコジンは含まれている。正常な細胞に含まれるオンコジン(がん遺伝子)のことをプロトオンコジンという。細胞の増殖には、プロトオンコジンが関与している。
遺伝子の量が増える、DNAの塩基配列に異常が起こるなどにより、プロトオンコジンは活性化する。その結果、細胞の無秩序な増殖が起こり、さらに細胞のがん化が進行する。
がん抑制遺伝子
がん化を抑えるように働く遺伝子のことをがん抑制遺伝子という。正常な細胞には、がん抑制遺伝子が含まれている。普通、含まれているはずのがん抑制遺伝子が、がん細胞に含まれていない場合がある。
がん抑制遺伝子には、RB、p53、APC、DCC、NF1、WT1などの種類が存在する。それぞれのがん抑制遺伝子について、以下に示す。
RB遺伝子
異常が確認される主な腫瘍 : 骨肉腫、網膜芽細胞腫、乳がん
染色体での位置 : 染色体13番の長腕(13q) ※qとは、染色体の長腕のことである。
p53遺伝子
異常が確認される主な腫瘍 : 胃がん、肺がん、大腸がん、骨肉腫、乳がん、子宮がん
染色体での位置 : 染色体17番の短腕(17p) ※pとは、染色体の短腕のことである。
APC遺伝子
異常が確認される主な腫瘍 : 大腸がん
染色体での位置 : 染色体5番の長腕(5q)
DCC遺伝子
異常が確認される主な腫瘍 : 大腸がん
染色体での位置 : 染色体18番の長腕(18q)
APC遺伝子
異常が確認される主な腫瘍 : 神経線維腫症
染色体での位置 : 染色体17番の長腕(17q)
WT1遺伝子
異常が確認される主な腫瘍 : ウィルムス腫瘍
染色体での位置 : 染色体11番の短腕(11p)
がんの完成
さまざまなオンコジン(がん遺伝子)やがん抑制遺伝子の異常が、一定の期間の経過ととも積み重なっていくことで、がんが完成に向かっていく。
がんの組織型やがんの種類によって、がんの発生のどの過程で遺伝子の異常が起こるのか、そして、どの遺伝子に異常が起こるのかに違いがある。