脂溶性ビタミンの性質
ビタミン
ビタミンは、脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンの2つに分けられる。
脂溶性ビタミン
ビタミンA
ビタミンAを種類別にすると、ビタミンA₁系(レチナール、レチノール、レチノイン酸)とビタミンA₂系(3-デヒドロレチナール、3-デヒドロレチノール、3-デヒドロレチノイン酸)に分けられる。これら6つのことを、レチノイドという。
そして、ビタミンA₁系に含まれるレチノールが、一般的にビタミンAとよばれるものである。
・ビタミンAの摂取
ニンジンやホウレンソウなどの緑黄色野菜には、プロビタミンAというビタミンAの前駆体が存在している。プロビタミンAには、α-カロチン、β-カロチン、γ-カロチン、クリプトキサンチンなどが存在する。
プロビタミンAは、体内で分解されてビタミンAをつくる。そのとき、β-カロチンは2分子のビタミンAを生成し、β-カロチン以外のプロビタミンAは1分子のビタミンAを生成する。
・ビタミンAの作用
ビタミンAは、視覚に関係するビタミンである。網膜内にある杆細胞には、ロドプシン(視紅)という物質がある。ロドプシンに外からの光が当たることで、杆細胞が興奮をおこす。その興奮による刺激が大脳(終脳)に伝わることで、光を感じ取ることができる。
上記以外にも、ビタミンAには、生体の成長の維持や、皮膚・骨・粘膜の形成と維持を行うといったはたらきがある。
・ビタミンAの欠乏症
体の中のビタミンAが足りなくなると、成長の遅れ、粘膜や皮膚の角化をおこすことがある。また、ビタミンAの欠乏症には、骨粗しょう症や夜盲症がある。
ビタミンD
ビタミンD(カルシフェロール)は、ビタミンD₂(エルゴカルシフェロール)とビタミンD₃(コレカルシフェロール)に分けられる。
・ビタミンDの前駆体の摂取
キノコ類などにはビタミンD2の前駆体となるプロビタミンD₂が多く含まれている。
肉などの動物性食品には、ビタミンD₃の前駆体であるプロビタミンD₃が多く含まれている。また、プロビタミンD3は、体内のコレステロールからもつくることができる。
食事などで体内に入り、皮膚に送られたプロビタミンD2やプロビタミンD3に日光などの紫外線が当たることで、それぞれビタミンD2とビタミンD3に変化させることができる。このことから、適度に日光に当たることが、ビタミンDの不足を防ぐために必要となる。
・活性型ビタミンD
ビタミンDは、活性型の状態である活性型ビタミンDにならなければ、体内で作用を示さない。
ビタミンDが体内に入ると、肝臓で25-ジヒドロキシビタミンDとなる。そこから、25-ジヒドロキシビタミンDは、腎臓に移って1,25-ジヒドロキシビタミンDに変化する。この1,25-ジヒドロキシビタミンDが、活性型ビタミンDである。
この活性型ビタミンDに変化することで、カルシウムの量を増やすといったビタミンDの生理作用が発揮されるようになる。
・ビタミンDの作用
ビタミンDのはたらきは、活性型ビタミンになることで発揮される。
ビタミンDには、骨からのカルシウムとリン酸の動員を促す、小腸でのカルシウムとリン酸の吸収を促す、腎尿細管におけるカルシウムとリン酸の再吸収を促すなどのはたらきがある。
・ビタミンDの欠乏症
ビタミンDは、リン酸とカルシウムの吸収などに関わる栄養素である。ビタミンDが不足すると、成人では骨軟化症、乳幼児ではくる病などの欠乏症にかかることがある。
ビタミンE
ビタミンEには、それぞれ4種類ずつ(α、β、γ、δ)のトコフェロールとトコトリエノールがあり、それらをまとめてビタミンEとよぶ。そして、生体内ではトコフェロールの1種であるα-トコフェロールが全体の約90%を占めている。
・ビタミンEの摂取
ビタミンEは、さまざまな食品に含まれている。
・ビタミンEの作用
ビタミンEは、還元性をもつフェノール性水酸基による抗酸化作用をもっている。
人は、酸素を呼吸すると、強い酸化力をもつ活性酸素が体内で生成される。体内で発生した活性酸素は、生体にさまざまな害を与える。ビタミンEがもつ抗酸化作用は、体内での活性酸素による被害を抑えることができる。
また、人の体には、活性酸素の除去に関わるSOD(スーパーオキシドジムスターゼ)、カタラーゼなどの酵素が存在する。しかし、これらの酵素だけでは、活性酸素による生体への被害を十分に抑えられない。
そのため、抗酸化作用をもつビタミンEなどの栄養素を摂取することで、活性酸素の除去をより高める必要がある。
・ビタミンEの欠乏症
ビタミンEはさまざまな食品に含まれているため、食事を摂っていればほとんど欠乏症になることはない。
ビタミンK
ビタミンKは、ビタミンK₁(フィロキノン)とビタミンK₂(メナキノン)に分けられる。
・ビタミンKの摂取
ビタミンK₁は、緑黄色野菜に多く含まれている。ビタミンK₂は、腸内細菌によってつくられる。
・ビタミンKの作用
ビタミンKは、血液の凝固や骨形成のために関係するビタミンである。
・血液の凝固
タンパク質の1種である血液凝固因子が作用するためには、Ca²⁺が結合する場所が必要である。ビタミンKは、このCa²⁺が結合する場所となるγ-カルボキシグルタミン酸残基の形成に必要なものとなる。
・骨形成
骨の形成に関わるタンパク質にオステオカルシンがある。ビタミンKは、オステオカルシンでのγ-カルボキシグルタミン酸残基の形成に関与する。骨形成が正しく行われるためには、ビタミンDが必要不可欠である。
・ビタミンKの欠乏症
ビタミンKは、腸内細菌でつくることができるため、ほとんど欠乏症はおこらない。しかし、腸内細菌が少ない新生児では、ビタミンKの不足によって頭蓋内で出血がおこるおそれがある。