水溶性ビタミンの性質

水溶性ビタミン

 

 ビタミンB₁(チアミン)
ビタミンB₁は、体内でTDPチアミン二リン酸)となる。そして、糖質の代謝に欠かせない酵素の補酵素としての作用を果たす。

 

・ビタミンB₁の欠乏症
ビタミンB₁の欠乏症には、浮腫や心機能障害などの症状を示す脚気(かっけ)がある。

 

 ビタミンB₂(リボフラビン)
ビタミンB₂は、FADフラビンアデニンジヌクレオチド)やFMNフラビンモノヌクレオチド)となる。そして、さまざまな酸化酵素の補酵素として、おもに作用する。

 

・ビタミンB₂の欠乏症
ビタミンB₂の欠乏症には、結膜炎や舌炎などの、皮膚から粘膜に移行する部分の炎症がある。

 

 ビタミンB₆(ピリドキシン・ピリドキサール・ピリドキサミン)
ピリドキシンピリドキサールピリドキサミンの3つをまとめてビタミンB₆という。これら3つは、それぞれ補酵素型であるPLPピリドキサールリン酸)になる。

 

 

PLPは、脱炭酸酵素やアミノ基転移酵素などの補酵素として作用する。このことから、ビタミンB₆はアミノ酸の代謝に関わる栄養素であるといえる。

 

・ビタミンB₆の欠乏症
ビタミンB₆は、腸内細菌で生成できるため、欠乏症はほとんどおこらない。

 

 ビタミンB₁₂(シアノコバラミン)
ビタミンB₁₂は、それぞれ補酵素型であるメチルコバラミンアデノシルコバラミンに変化する。

 

メチルコバラミンは、メチオニン合成酵素のメチル基転移反応に関わる補酵素として作用する。アデノシルコバラミンは、メチルマロニルCoAムターゼの異性化反応に関わる補酵素として作用する。

 

・ビタミンB₁₂の欠乏症
ビタミンB₁₂の欠乏症には、知覚異常や全身倦怠などをおよぼす悪性貧血がある。ビタミンB₁₂の欠乏症は、菜食主義の人や、胃の全摘出をした人におこりやすい。

 

 ・菜食主義の人の場合
ビタミンB₁₂を含む野菜やくだものはとても少ない。そのため、菜食主義の人の場合、菜食主義でない人よりもビタミンB₁₂の欠乏症をおこしやすいといえる。

 

 ・胃の全摘出をした人の場合
胃粘膜で生成されて胃腔へと分泌される糖タンパク質である内因子は、ビタミンB₁₂の吸収に欠かせないものである。もし、手術などで胃を全摘出すると、ビタミンB12を食事で摂っても吸収することができない。

 

そのため、胃の全摘出をした人の場合、ビタミンB₁₂の欠乏をおこしやすいといえる。

 

 パントテン酸
パントテン酸は、CoASH補酵素A)というものに変わる。CoASH(補酵素A)は、脂肪酸の分解や合成、アミノ酸や糖質の代謝に重要なはたらきを示すアシル基(R-CO-)の反応に関わる。

 

・パントテン酸の欠乏症
パントテン酸はあらゆる食品に含まれているため、欠乏症はほとんどおこらない。

 

 ナイアシン(ニコチン酸)
ナイアシンは、肝臓でトリプトファンから生成される。また、体内でつくることができるビタミンは、ナイアシンだけである。

 

ナイアシンは、補酵素型であるNADPニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)とNADニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)に変わる。NADPとNADは、脱水素酵素などのさまざまな酸化還元酵素の補酵素として作用する。

 

・ナイアシンの欠乏症
ナイアシンの欠乏症には、下痢や皮膚炎などの疾患のほか、痴呆などの症状を示すペラグラという疾患がある。

 

 リポ酸
リポ酸は、自身のカルボキシル基によって酵素に共有結合している。

 

リポ酸は、α-ケト酸(RO-CO-COOH)による、酸化的脱炭酸反応の補酵素として作用する。また、リポ酸が関与するのはおもに糖質の代謝である。

 

・リポ酸の欠乏症
リポ酸は、腸内細菌によって生成できるため、ほとんど欠乏症はおこらない。

 

 ビオチン
ビオチンのカルボキシル基(-COOH)がアミドの形で、リシン残基のアミノ基(-NH₂)に共有結合している。

 

ビオチンが関与するのは、おもに脂質・糖質の代謝であり、炭酸固定化反応をおこす酵素の補酵素として作用する。

 

 ※炭酸固定化反応をおこす酵素
 炭酸固定化反応をおこす酵素には、ピルビン酸カルボキシラーゼ、アセチルCoAカルボキシラーゼなどがある。

 

・ビオチンの欠乏症
ビオチンは、腸内細菌によって生成できるため、欠乏症はほとんどおこらない。しかし、生卵を摂り過ぎた場合、欠乏症をおこすことがある。

 

卵白には、ビオチンと強く結びつくアビジンが含まれている。このアビジンによって、体内のビオチンが吸収されにくくなる。アビジンがもつこの作用は、しっかりと卵白を加熱することで抑えることができる。そのため、卵はできるだけ加熱してから食べるのがのぞましい。

 

 葉酸
葉酸は、体内での還元によってTHF(テトラヒドロ葉酸)に変化する。THFは、ホルミル基(-CHO)やメチル基(-CH₃)などのC₁基の転移を行う補酵素となる。

 

また、葉酸からつくられるTHFは、ピリミジン塩基であるチミン、プリン塩基であるアデニンやグアニンをつくるために欠かせないものとなっている。

 

・葉酸の欠乏症
葉酸は、腸内細菌によって生成できるものの不足する場合がある。葉酸が不足すると、腸管障害や貧血などの欠乏症を起こす恐れがある。

 

・葉酸に対する阻害剤
葉酸をTHFに変える酵素を拮抗的に阻害するものとしてメトトレキサートがある。メトトレキサートは、リウマチ、骨肉腫、リンパ性白血病などの治療薬になる。

 

 ビタミンC(アルコルビン酸)
ビタミンCは、ビタミンEと同じく強い抗酸化作用をもち、活性酸素の悪影響を防ぐのに役立つビタミンである。

 

また、アドレナリン、ノルアドレナリン、ステロイドホルモンなどの生成にも、ビタミンCが関わっている。これらのホルモンをつくるためには、水酸化反応での電子供与体が欠かせない。ビタミンCは、この水酸化反応での電子供与体となるのである。

 

さらに、ビタミンCは皮膚や骨などの主成分であるコラーゲンの生成にも関わっている。コラーゲンの生成の過程には、コラーゲン前駆体であるリシン残基プロリン残基の水酸化反応がある。ビタミンCは、その水酸化反応に欠かせないものとなっている。

 

・ビタミンCの欠乏症
ビタミンCが不足すると、正常な状態のコラーゲンがつくられなくなる。その結果、ビタミンCの欠乏症である、貧血や歯肉・皮下の出血などの症状を示す壊血病になることがある。