筋収縮時のATP分解・熱の発生
こちらのページでは、「筋収縮時のATP分解」と「筋収縮による熱の発生」について、それぞれ解説していく。
筋収縮時における化学変化
筋の収縮時における化学変化は、とても複雑になっている。その一部を以下に示す。
●筋の収縮時における、ATPの分解とエネルギーの発生
ATP(アデノシン三リン酸)がある場合に、ミオシンフィラメント(太いフィラメント)とアクチンフィラメント(細いフィラメント)とが反応することにより、筋の収縮が起こる。
筋の収縮にはエネルギーが必要であり、そのエネルギーはATPが分解されることでつくられる。
分解されたATPは、エネルギーのほかにADP(アデノシン二リン酸)を発生させる。
ATP(アデノシン三リン酸) ⇔ ADP(アデノシン二リン酸) + エネルギー
●CrP(クレアチンリン酸)の分解とエネルギーの発生
筋には、CrP(クレアチンリン酸)が含まれている。筋に含まれているCrPが分解されると、エネルギーが発生する。
このときに発生したエネルギーは、ATPを再合成するときに使われる。
ADP + CrP(クレアチンリン酸) ⇔ ATP + Cr(クレアチン)
●グリコーゲンの分解とエネルギーの発生
筋が収縮する際に酸素の供給が追いついていない場合、筋に含まれているグリコーゲンが乳酸へと分解されるこのとき、同時にエネルギーが発生する。
発生したエネルギーは、CrP(クレアチンリン酸)を再合成するときに使われる。
ATP分解
ATP(アデノシン三リン酸)の分解によって、筋線維の収縮に必要なエネルギーが補われる。
この場合、フィラメントを構成するものであるミオシンの酵素作用によって、ATPの分解が行われる。
筋収縮のときにATPは分解され、発生したエネルギーは運動時に消費される。そのため、長い間運動が続くことで、エネルギーが尽きてしまう。
それを防ぐために、ATPの分解でつくられたADP(アデノシン二リン酸)を、速めにATPに再合成させる必要がある。
ATPの再合成
ADPをATPに再合成するためには、エネルギーが必要となる。このとき使うエネルギーは、筋肉に含まれているCrPの分解によって発生するエネルギーである。
- CrPの分解によって、CrPからリン酸(P)が離れる。 CrP(クレアチンリン酸) → Cr(クレアチン) + P
- CrPから離れたリン酸は、ADPと結合してATPをつくる。 ADP + P → ATP
CrP(クレアチンリン酸)の再合成
CrP(クレアチンリン酸)が分解されることで、Cr(クレアチン)とP(リン酸)になる。この2つをCrP(クレアチンリン酸)へと再合成するためには、上記と同じくエネルギーが必要となる。
CrP(クレアチンリン酸)の再合成に必要なエネルギーには、以下の2種類があげられる。
- クエン酸回路(TCA回路)によって発生するエネルギー
- 筋肉に含まれているグリコーゲンが、乳酸に分解される場合に発生するエネルギー
グリコーゲンの分解によってつくられた乳酸は、血液に送られる。血液に含まれる乳酸は、肝臓でグリコーゲンをつくるときの材料となる。
筋収縮による熱の発生
等尺性収縮
筋の両端を固定して、縮まない状態の筋に刺激を与えたとする。この場合、筋の長さはそのままだが、筋の張力が増える。これを等尺性収縮という。このとき、同時に熱の発生が起こる。
等尺性収縮の場合、筋が刺激されることで発生したエネルギーのうち、すべてが熱へと変えられる。
等張性収縮
筋のうち、どちらか一方を固定し、もう一方には、筋が縮むことができるほどの重さのおもりをつけたとする。その状態の筋を刺激した場合、筋は収縮しておもりを引き上げる。この場合の筋の収縮のことを、等張性収縮という。
等張性収縮の場合、筋が刺激されることで発生したエネルギーのうち、約1/4が筋を収縮するために消費される。それ以外の約3/4は、熱へと変えられる。
筋収縮によって発生した熱の利用
筋の収縮によって発生した熱は、血流によって体全体へと送られる。そして、生体の体温を保つのに役立つ。