甲状腺ホルモン、カルシトニン、分泌の調節、甲状腺機能の異常

甲状腺ホルモン
甲状腺ホルモンには、トリヨードサイロニン(T3、トリヨードチロニン)とサイロキシン(T4、チロキシン)が存在する。

 

甲状腺がもつ濾胞(ろほう)の壁を構成する上皮細胞によって、トリヨードサイロニンとサイロキシンが生成される。

 

甲状腺ホルモンの前駆体であるサイログロブリン(チログロブリン)は、甲状腺の濾胞の中に存在するコロイドに溜め込まれている。

 

サイログロブリンが分解されることで、トリヨードサイロニンとサイロキシンができる。それぞれのホルモンは、血液の中に決まった量ずつ分泌される。

 

血液の中に分泌されると、トリヨードサイロニンとサイロキシンはアルブミンなどの血清タンパク質に結びつく。そして、体全体を循環する。

 

また、サイロキシンの生理活性に比べてトリヨードサイロニンの生理活性の方が約3~4倍ほど大きい。

 

 甲状腺ホルモンの生理的な働き
甲状腺ホルモンは、体全体の細胞や組織に対して刺激を与える。すると、物質代謝が高められ、つくられるエネルギーの量が増加する。

 

上記により、末梢の組織で消費される酸素の量が増える。さらに、基礎代謝が高まって体温が上がる。それらの結果、それぞれの臓器の機能が亢進される。またこのとき、心臓の機能が亢進される。

 

甲状腺ホルモンの生理的な働きを、それぞれの働きごとにまとめて以下に示す。

 

・甲状腺ホルモンによる基礎代謝(BMR)への働き
末梢の組織での酸素消費量を大きく増やす。それにより、心拍数と心拍出量が増やされる。

 

・甲状腺ホルモンによる糖代謝への働き
小腸でのグルコースの吸収と、肝臓でのグリコーゲンの分解を促す。それによって、血糖を高めさせる。

 

・甲状腺ホルモンによる脂質代謝への働き
肝臓における脂質の生成を促す。それにより、血液に含まれるコレステロールの濃度が下がる。

 

・甲状腺ホルモンによるタンパク質代謝と核酸代謝への働き
タンパク質と核酸の生成を促す。それによって、尿に含まれる窒素が排出される量を増やす。また、しっかりとタンパク質の補給ができている場合には、体の成長と発育が促進される。

 

 

カルシトニン
甲状腺で分泌されるホルモンには、カルシトニンも存在する。しかし、カルシトニンは甲状腺ホルモンには含まれない。

 

カルシトニンは、腎臓におけるリン酸の排出を増加させる。それによって、血液に含まれるリン酸の量が減少する。

 

また、血液に含まれるカルシウムの量が多くなると、カルシトニンは骨にカルシウムを沈着させる。それにより、カルシウムの血中濃度が下がる。

 

 

甲状腺ホルモンの働きと分泌の調節
甲状腺では、適度な量のホルモンの生成と分泌がつねに行われている。これによって、体全体の物質代謝が、一定の値に保たれている。

 

血液に含まれる甲状腺ホルモンは、標的器官と視床下部に同時に働く。そして、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の分泌の調節を行う。

 

甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンによって、下垂体前葉から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌が調節される。

 

上記のように、視床下部、下垂体前葉、甲状腺の3つによって、負のフィードバック機構が構成されている。それにより、血液に含まれる甲状腺ホルモンの濃度が正常な状態に維持される。

 

寒さや精神的な興奮などの場合には、甲状腺ホルモンの分泌が増える。そのため、基礎代謝は冬に亢進する傾向がある。

 

 

甲状腺機能の異常

 

 甲状腺機能亢進症
甲状腺ホルモンが、異常に多く産生され、また分泌されることで、いろいろな症状が引き起こされる。この状態を、甲状腺機能亢進症という。甲状腺機能亢進症のうち、主なものにバセドウ病(グレーブス病)があげられる。

 

・バセドウ病(グレーブス病)
バセドウ病の場合、心拍数が増える、眼球が突き出る、甲状腺腫、手や指がふるえる、基礎代謝率が上がる、暑さに弱くなるなどの症状が現れる。

 

 甲状腺機能低下症
甲状腺の機能が弱くなると、甲状腺機能低下症(粘液水腫)という疾患が引き起こされる。甲状腺機能低下症では、物質代謝や臓器機能の低下などの症状が現れる。

 

・クレチン症
甲状腺の機能に先天的な障害がある場合に、甲状腺ホルモンの分泌が足りないと、体の発育などが障害される。この疾患のことを、クレチン症という。