感染・発病の因子、常在細菌叢

病原体と宿主との相互作用によって、感染や発病が起こるかどうかが決まる。

 

病原体がもつ因子

 

 病原性、ビルレンス(毒力)
菌が他の生物に対して、特定の条件のときに感染症を引き起こす可能性がある性質のことを、病原性という。また、病原性がある菌が感染症を起こすための力の強さのことを、ビルレンス(毒力)という。

 

病原性とビルレンス(毒力)の2つが、病原体のもつ因子のなかでとくに重要なものとなっている。

 

 病原因子
ビルレンスを決定している因子のことを、病原因子という。病原因子は、定着因子侵入因子毒素と酵素の3つのカテゴリーに大きく分けられる。

 

・定着因子
病原体が、宿主に定着して増殖を行うのに不可欠な因子のことを、定着因子という。特定の運動性に優れる細菌がもつ鞭毛(べん毛)は、定着因子として作用する。他にも、特定の細菌がもつ線毛が定着因子となる。

 

・侵入因子
宿主に定着した病原体が、宿主がもつ細胞や組織の中に侵入するために不可欠な因子のことを、侵入因子という。

 

・毒素と酵素
病原体がもつ毒素や酵素は、宿主の細胞や組織などに対して、さまざまな障害を引き起こす。

 

毒素のうち、菌体の外部に分泌されるものを外毒素という。また、グラム陰性菌がもつ細胞壁に存在する毒素のことを、内毒素という。

 

 ・外毒素
菌体の外側に分泌される毒素のことを、外毒素という。外毒素は、タンパク質によって構成されている。それにより、強い抗原性を示す。また、外毒素は、病原体によってさまざまな毒性を示す。
 
外毒素は、生体の内部で抗体を生成させる。外毒素によって、生成された抗体のことを抗毒素という。つくられた抗毒素は、感染症の治療に役立つ。

 

ホルマリンなどによって、病原体の毒素を無毒化したものを無毒化毒素(トキソイド)という。また、無毒化毒素をワクチンとして生体に投与することで、抗毒素抗体をつくることができる。

 

 ・内毒素
内毒素は、グラム陰性菌の細胞壁に含まれている。内毒素は、リポ多糖で構成されている。

 

内毒素には、リピドAという脂質の部分がある。リピドAには、毒素活性がある。しかし、リピドAの本体である内毒素自体が脂質であることから、抗原性が低い。

 

内毒素がもつ作用には、血液凝固作用補体の活性化マクロファージへの作用がある。それぞれの作用の強さは、菌体によってそれぞれ違いがある。

 

 [血液凝固作用]
生体にある血液に作用し、血液の凝固を起こさせる。血液の凝固が血管の中で進むことは、白血球の凝固場所への集合や、血管の閉塞などを引き起こす原因となる。

 

 [補体の活性化]
補体の別経路の活性化が起こることで、生体にショックや発熱などの症状が引き起こされる。

 

 [マクロファージへの作用]
生体の細胞が内毒素と反応した場合、その細胞からサイトカインが出される。それによって、血管の収縮、白血球の集合、発熱などが引き起こされる。

 

 

宿主がもつ因子

 

 感受性
特定の病原体の影響を受けやすい性質を、病原体に対する感受性という。この感受性が高いほど、その病原体が感染したときに、発病しやすくなる。

 

疲労していたり、健康状態や精神状態が良くない場合には、感受性が高まってしまう。また、特定の病原体に対する免疫をもった場合、その病原体に対する感受性を低下させることができる。

 

 生理的障壁
生理的な障壁にあてはまるものには、消化管の蠕動運動、皮膚の角化、気管の線毛運動、排尿などの生体での生理作用があげられる。

 

これらの生体の生理作用によって、病原体の感染を防ぎつつ、病原体を外に排出させることができる。しかし、これらの生理作用を行う器官などが障害されると、その生理作用が低下し、感染を起こしやすくなる。

 

 血清の因子、体液中の因子
健康な状態の血清には、プロパージン(P因子)というものが含まれている。プロパージンは、補体とともに殺菌作用を示すとされている。

 

唾液などの特定の体液には、リゾチームという酵素が存在する。リゾチームは、細菌がもつ細胞壁を分解する作用をもっている。

 

 食細胞の作用
生体で行われる殺菌作用のほとんどは、食細胞によるものである。食細胞は、菌を取り込む働きをもっており、この働きを食作用(貪食:どんしょく)という。

 

食細胞のうち、感染の初期段階で主に作用を示すのは、好中球(多核白血球)である。好中球は血液中に多く存在する。そして、感染を起こした場合に、その場所に好中球が集まる。

 

好中球は、免疫が成り立つ前の生体を守るための機能をもつ。

 

食細胞の1種であるマクロファージは、血液や臓器の中に存在する。また、それぞれの場所ごとに異なるマクロファージが存在している。

 

マクロファージが食作用によって取り込んだ菌は、マクロファージの中のファゴソームという場所に送られる。

 

生体の細胞の中には、消化酵素を含む細胞小器官のリソソーム(ライソソーム)が存在する。食細胞がもつファゴソームにリソソームが融合することでファゴリソソームとなる。

 

上記により、食細胞が取り込んだ菌に対して、リソソームに含まれる消化酵素の働きが起こる。その結果、その菌が壊される。

 

食作用によって食細胞に取り込まれた細菌のほとんどは、細胞での糖代謝の活発化によってできた過酸化物(スーパーオキシド)によって壊される。

 

免疫が成立した場合、マクロファージの殺菌作用が強められ、活性化マクロファージに変化する。活性化マクロファージの場合、通常のマクロファージの状態では壊せなかった菌も、壊すことが可能になる。

 

 細胞内寄生性細菌
細菌には、食細胞の中で増殖を行でるものが存在する。このような細菌のことを、細胞内寄生性細菌という。この細菌は、食細胞がもつ殺菌機能の一部を障害して、食細胞の殺菌から自身の身を守る性質を備えている。

 

 

常在細菌叢
生体の体の表面や体内に定着した細菌の集まりのことを、常在細菌叢(正常細菌叢、常在微生物叢)という。

 

基本的には、常在細菌は宿主に対して危害を加えず、宿主と共生の状態になっている。常在細菌は、宿主が摂取した栄養や、宿主が排出するものなどを、自身の栄養源にしている。

 

また、常在細菌の中には、宿主に必要となるビタミンなどの栄養素をつくり、宿主に送るものも存在する。

 

常在細菌叢には、外部の微生物の侵入を食い止め、感染を防ぐ役割がある。

 

もし、常在細菌叢が、抗生物質の投与などによって減ったり死滅したりした場合、外部の微生物が体内に侵入しやすくなる。そして、体内に侵入した微生物によって、新しく感染症が引き起こされることがある。

 

どの細菌が、常在細菌として存在しているかは、その場所によって違う。たとえば、口腔内には嫌気性菌が常在細菌として存在している。また、皮膚にはブドウ球菌などが常在細菌として存在している。

 

 日和見感染
特定の疾患などによって宿主がもつ抵抗性が落ちた場合、常在細菌が感染し、感染症を引き起こすことがある。このような感染のことを、日和見感染という。

 

 菌交代症
抗生物質の投与などによって、常在細菌が死滅したり減少したりした場合に、その抗生物質に対する抵抗性をもつ菌によって感染症が引き起こされることがある。このことを、菌交代症という。

 

 内因性感染
常在細菌叢に定着している菌は、その場所に存在しているときに宿主に病原性を示すことはない。しかし、定着している場所から別の場所に侵入した際に、病原性を示して感染症を引き起こす場合がある。これを、内因性感染という。