細胞の老化、個体の老化、ホメオスタシスと老化

・加齢、加齢現象
加齢による体の変化は、その個体が生まれるときから起こっている。そして、成長→成熟→老化と変化が進でいき、最終的に死を迎える。

 

それぞれの段階を進んでいくなかで起こる、体の生理機能や形の変化のことを加齢現象という。

 

・老化
加齢が進むにつれて、個体がもつ各種の臓器の機能が低下していく。

 

さらに、その個体における、決まった範囲内で体内の状態を維持する機能である恒常性を保つのが、しだいに難しくなる。このような状態のことを老化という。

 

老化の進行は、生体の内側や外側から生体に働きかける外因と、遺伝子に組み込まれている内因との2つによって起こる。また、とくに大きく老化に関わるのは、長い期間に及ぶ外因の影響であるとされる。

 

・寿命
生まれてから死ぬまでの期間を寿命という。寿命は、それぞれの生物ごとにある程度決まっている。人間の場合、その寿命の限界は約120歳だと考えられている。

 

個体の寿命には、その個体に影響を与えるさまざまな外因が関係している。

 

 

細胞の老化
加齢が進行するごとに、細胞や組織が老化していく。そして、細胞や組織がもつ、エネルギー原の利用や、自身の再生などのさまざまな機能が弱くなっていく。

 

 細胞の損傷
ブドウ糖と酸素の2つから、細胞はエネルギーの産生を行う。しかし、酸素が必要以上に存在する場合、それによって細胞が傷害される。このことが、長い期間積み重ねられることで、細胞が老化を起こす。

 

・酸素、フリーラジカル
細胞の内部に存在する細胞内小器官の1つに、ミトコンドリアがある。ミトコンドリアは酸素を使って、生体が動くためのエネルギーを生成する。

 

ミトコンドリアが行う酸素からのエネルギー産生は、細胞が老化することで衰える。これにより、体内に余分な酸素が増やされることになる。

 

余分な酸素によって、体にさまざまな毒性を示す物質であるフリーラジカルが生成される。フリーラジカルによって、DNAが傷つけられて突然変異しやすくなり、腫瘍がつくられやすくなる。

 

また、タンパク質と糖質とが結合したものが必要以上につくられたり、タンパク質の構造が変えられたりするなど、さまざまな変化が引き起こされる。

 

・抗酸化作用
余分な酸素を処分する働きのことを抗酸化作用という。生体内には、抗酸化作用もつさまざまな組織が存在する。これらの組織の機能が衰えることも、個体の老化を促す原因となる。

 

また、抗酸化作用は、ビタミンCやビタミンEなどの栄養素にも存在している。そのため、生きていくうえでは、これらの栄養素をしっかりと補給することが大切である。

 

 細胞の萎縮

 

・リポフスチン(消耗色素)
細胞が老化し、その機能が弱まった場合、その細胞の中では、黄色い褐色の色素の沈着が起こる。この色素のことをリポフスチン(消耗色素)という。

 

脳の神経細胞や心臓などでは、リポフスチンの沈着がとくに起こる。そして、加齢が進むとともに、リポフスチンが沈着する量が増える。

 

リソソームにおいて、細胞内にある老廃物が、酵素の作用で分解される。しかし、フリーラジカルによって過酸化された脂質の場合、消化が完璧には行われない。さらにその脂質は、細胞内に残ることになる。

 

上記のように、消化されなかった脂質が細胞内に溜め込まれたものが、リポフスチンの形で確認される。

 

・褐色萎縮
高度なリポフスチンの沈着と蓄積は、心臓や肝臓で起こることがある。この場合、それぞれの臓器の色が褐色に見えるようになる。これを褐色萎縮という。

 

 細胞がもつ寿命

 

・テロメア
人から細胞を採取し、その細胞の培養を行うと、その細胞はある程度の時間まで細胞分裂を行い、増殖する。

 

その後、その細胞は分裂をしなくなって死に至る。細胞のこの性質に関わるものとして、DNAの末端の部分に確認されるテロメアという構造がある。

 

テロメアは、細胞分裂を行うたびに短くなっていく。テロメアの長さによって、細胞がどのくらい分裂と増殖を行えるのかが決まる。

 

 

個体の老化
個体が老化することで、体に存在するすべての機能が弱まっていく。その結果、体の抵抗力が下がって病気を起こしやすくなる。さらに、運動能力が下がって骨が折れやすくなるといったことなどが起こる。

 

また、老化によって、体の変化を察知する機能も弱まる。そのため、特定の変化に対して体が正しい反応を行うことが困難になる。さらに、一度病気にかかったり、ケガをした場合には、治るのに時間がかかってしまう。

 

 

ホメオスタシスと老化
個体の内側の環境がつねに一定の状態に維持されることは、その個体が生存し続けるためには欠かせないことである。

 

体内の環境を一定の範囲内に保つ機能のことを恒常性という。そして、生体における恒常性が維持されている状態のことをホメオスタシスという。

 

ホメオスタシスのためにとくに重要な作用を行うのは、生体に備わっている神経系内分泌系免疫系の3つである。

 

神経系は、体の外からの刺激を情報として感じ取る。内分泌系は、大脳からの支配を受けることで、ホルモンの生成と分泌を行い、体のそれぞれの器官の作用の調節を行う。

 

免疫系は、体の内部に侵入した微生物などの異物を感知し、その処理を行う。

 

神経伝達物質やホルモンなどの化学伝達物質により、神経系、内分泌系、免疫系の3つが、それぞれ連携しつつ作用する。

 

例として、何らかの微生物に感染したとする。この場合、体に疲労感などの症状が現れることがある。これは、免疫系で生成された伝達物質が、神経系に働くために起こる。

 

免疫系、内分泌系、免疫系の3つの働きが、老化によって弱まった場合、体に疾患が生じてもなかなか気づけなくなる場合がある。