先天異常、遺伝子異常
先天異常
特定の異常が、その個体が生まれる前や、生まれるときから確認される場合、その異常のことを先天異常という。先天異常には、形態に関係するものと機能に関係するものとがあげられる。
先天異常の原因・分類
卵子と精子がつくられて受精し、胎児が生まれるまでを個体発生という。先天異常が起こるのは、個体発生の過程のどこかで障害が与えられたときである。
先天異常は、障害が与えられた時期や、障害を受けた原因により、遺伝障害と胎児障害とに大きく分けられる。
・遺伝障害
遺伝情報が、親から子へと伝えられるときに起こる障害のことを遺伝障害という。遺伝障害にあてはまるものとして、遺伝性疾患と染色体異常があげられる。
・遺伝性疾患
遺伝子の異常によって引き起こされる遺伝障害を遺伝性疾患という。
・染色体異常
染色体の構造や数の異常が、精子や卵子の形成時に起こる場合、それを染色体異常という。
・胎児障害
卵子と精子の受精後に、母胎の中で起こる先天異常のことを胎児障害という。障害が与えられたのが、妊娠の初期における胎児の形態形成の期間であった場合、それによって先天性奇形が起こることがある。
奇形
特定の原因により、個体発生の時期において形態の異常が起こった場合、それを奇形という。
奇形の原因には、胎児の形態形成の時期である胎芽期における胎児への障害や、胎芽期になる前の時期における胎児への障害があげられる。しかし奇形には、原因が明確でないものが多い。
・奇形の発生機構
奇形が発生する機構には、以下のようなものがあげられる。
・発育抑制
形成されるはずの器官の形成が抑えられた場合、それを発育抑制という。
・過剰形成
形成されるはずのない組織が異常に多く形成された場合、それを過剰形成という。
・遺残
発生の時期に、本来退化するはずの器官や組織が退化しないまま残った場合、それを遺残という。
・分割不全
発生の時期に、分割されてから形成されるべきものが、分割を起こさない場合、それを分割不全という。
・融合不全
発生の時期に、融合して形成されるはずの組織が、融合を起こさない場合、それを融合不全という。
・性徴の混在
外性器の性と性腺の性とが合致しない場合が、性徴の混在にあてはまる。
・臓器の位置の異常
臓器があるべきところとは、違う位置に置かれることが、臓器の位置の異常にあてはまる。
遺伝子異常
親からその子孫に、親がもつ形質が引き継がれることを遺伝という。このとき、親の形質は、遺伝子によって引き継がれる。
遺伝子の異常による疾患のうち、親からその子孫に遺伝するものは、卵子や精子の形成に関係する生殖細胞に発生した遺伝子の異常だけである。
そして、遺伝子の異常が遺伝した場合、それによる遺伝性疾患が引き起こされる。
遺伝の仕組み
・遺伝子
人の細胞の核の内部には、DNA(デオキシリボ核酸)が存在する。DNAには、その細胞をもつ個体の形質を伝達する遺伝情報が含まれている。
DNAは、4種類の塩基が縦につながって構成されている。DNAを構成する4種類の塩基は、A(アデニン)、G(グアニン)、T(チミン)、C(シトシン)である。
1つの個体を構成する細胞がもつDNAの塩基配列は、すべて同じになっている。
DNAがもつ塩基配列には、それぞれの形質を伝達する遺伝情報が含まれている。この遺伝情報を担当している塩基配列のことを遺伝子という。
・染色体
染色体は、DNA1分子につき1つ構成される。また、細胞1つにつき46本の染色体が存在する。
・ゲノム
その個体の染色体がもつ遺伝情報すべてをまとめて、ゲノムという。
・DNAの複製
DNAを構成する塩基は、A(アデニン)、G(グアニン)、T(チミン)、C(シトシン)の4つであり、それらが鎖状につながってDNAが構成されている。
DNAを構成する4種類の塩基のうち、A(アデニン)はT(チミン)と、G(グアニン)はC(シトシン)とそれぞれ対になって結合している。
そして、それぞれの塩基の組み合わせが相補的に並んで鎖状につながり、その鎖が2本組み合わさって二重らせん構造を構成する。
細胞分裂が起こるとき、その細胞のDNAの塩基配列をもとに、同じ塩基配列をもつ新しいDNAがつくられる。これがDNAの複製となる。DNAの複製では、以下のことが行われる。
・二重らせん構造の状態のDNAの二重らせんがほどけて、1本鎖の状態に変わる。
・それぞれの鎖の塩基配列をもとに、その塩基配列に結合できる配列で塩基が結合する。
・上記により、同じ塩基配列をもつDNAが2分子つくられる。
こうしてDNAが複製されることで、細胞分裂によってつくられた細胞にも、同じ塩基配列をもつDNA分子と遺伝子が伝えられることになる。
・常染色体、性染色体
人の体の細胞は、46本の染色体をもっている。これらの染色体は対になっている。つまり、46本の染色体を言い換えれば、23対の染色体ということになる。
これらの染色体のうち、男女で共通する44本(22対)の染色体を常染色体という。
残りの2本(1対)の染色体は、男女で異なるものであり、性染色体という。男性がもつ性染色体は「XY」となっており、女性がもつ性染色体は「XX」となっている。
生殖細胞で精子や卵子がつくられる場合、特別な細胞分裂である減数分裂によって、染色体23対(46本)のうちの1本ずつで合計23本を含む、精子と卵子とが生成される。
これらの精子と卵子とが受精することで、それぞれ23本の染色体が合わさり、46本の染色体を含む細胞がつくられる。このようにして、父親の染色体と母親の染色体とが、それぞれその子に受け継がれる。
遺伝子に関する疾患
人によって、遺伝子の配列は少しずつ異なっている。こうした異なる遺伝子の配列の中には、特定の疾患の原因になりうるものが存在する。
その一方で、遺伝子の異常が、すでに完成された体細胞に起こった場合にも、それを原因とする疾患が引き起こされる恐れがある。
・突然変異
遺伝子や染色体に発生する永続性がある変異であり、なおかつ細胞分裂によって新たにつくられた細胞の変異や、個体から子孫に伝えられる変異のことを、突然変異という。
・突然変異の原因
DNAが受けた傷が原因となり、突然変異が発生する。突然変異の発生がとくに多いとされるのは、細胞分裂をする場合の、DNAの複製を行っている間である。
突然変異の原因の具体例としては、放射線や抗がん剤などがあげられる。
・点突然変異
突然変異のうち、DNAがもつ塩基のうち1つが失われる、塩基の1つが別の塩基に換えられる、塩基が過剰に入り込むものを点突然変異という。点突然変異は、突然変異の中で一番起こりやすいものとされている。
・転座、欠失
DNA分子が大きく傷ついた場合、染色体の構造が変化を示すことがある。そのうち、違う染色体のそれぞれの断片が互いに結びつくことを転座という。また、染色体のうちの一部が欠けて消失することを欠失という。
・突然変異の発生
突然変異の発生は、体細胞と生殖細胞のどちらにも起こりうる。このうち、その個体の子孫に伝えられる突然変異は、生殖細胞で起こった突然変異だけである。
転座や欠失などの染色体の構造の変化が起こると、それによって生殖自体が妨げられる。このことから、染色体の構造の変化を子孫が受け継ぐことは少ない。
遺伝子の異常・疾患
・生殖細胞遺伝子
突然変異によって起こる異常をもつ個体が生き残り、なおかつ生殖できる状態だったとする。この場合にだけ、生殖細胞の遺伝子DNAに起こった突然変異が、それをもつ個体の子孫に伝えられる。
そして、その子孫の遺伝性疾患の原因となるのは、伝えられた突然変異のなかのごく一部である。
突然変異のうち、遺伝性疾患の原因となるものは、長期間にわたって人々の遺伝子に溜め込まれていったものがほとんどである。
実情としては、生殖細胞を介して、さまざまな遺伝子異常が大勢の人々に伝えられている。こうした状況に、他の因子が関わることにより、さまざまな疾患が引き起こされる。
・体細胞遺伝子
体細胞の遺伝子に突然変異が発生した場合、その突然変異はがんなどの疾患の原因となる。こうした体細胞の遺伝子の突然変異は、その個体の子孫には伝えられない。
一方、生殖細胞を介して伝えられた遺伝子の変異の他に、さらに、体細胞で新しく発生した突然変異が、疾患を引き起こす原因になることが多い。
この例の1つとして、がんを起こしやすい家系があげられる。こうした家系では、遺伝子の異常が1対の遺伝子のうちの一方に伝えられている。
そして、異常がない遺伝子に新しく異常が発生すると、がんを発病してしまう恐れがある。