先天性心疾患(心奇形)の種類・症状

心臓が発生する過程で起こる心臓の形成異常として、先天性心疾患(心奇形)がある。

 

先天性心疾患を発病するのは、新生児の全体の約1%である。先天性心疾患のうち、そのほとんどは、胎児期の心臓の形成が途中で止まり、胎児期における循環の形態が残されたものとなっている。

 

胎児期における血液循環
胎児期において、静脈血は、胎盤で動脈血へと変わる。その後、その動脈血は、臍動脈(さいどうみゃく)と下大静脈を順に通過し、右心房へと入る。

 

右心房に入った血液のうち、そのほとんどが卵円孔に進んで左心房へと送られる。そこから、血液は左心室と大動脈を順に通り、体全体へと進んでいく。

 

また、右心房から右心室へと送られた血液のうち、そのほとんどが肺動脈とボタロー管(動脈管)を順に進み、大動脈へと送られる。このとき、肺に送られる血液は、ごくわずかである。

 

 

先天性心疾患の症状
先天性心疾患により、体循環(大循環)に静脈血が送られるようになると、酸素を豊富に含んだ血液が補給されない。

 

上記により、太鼓のばち状の指チアノーゼ赤血球増加症などの症状が引き起こされる。また、赤血球増加症ではなく、多血症が引き起こされる場合もある。

 

 

先天性心疾患の種類
先天性心疾患(心奇形)のうち、主なものには、心房中隔欠損症心室中隔欠損症ファロー四徴症などがあげられる。

 

 心房中隔欠損症(ASD)
心房の中隔に穴が開いた状態のことを心房中隔欠損症(ASD)という。心房の中隔の欠損には、一次孔欠損二次孔欠損(卵円孔欠損)とがある。

 

・心房の発生
発生する初期の心房は、内腔の数が1つになっている。その後、一次中隔によって、心房は左心房と右心房とに仕切られる。

 

だが、胎生期の場合、酸素を多く含む血液が通る順番は、胎盤→下大動脈→右心房となっている。このため、左心房と右心房との間で、行き来ができる状態であることが必要となる。

 

上記のために、一次中隔がつくられる初期の段階では、一次中隔の下の方に一次孔という孔が開いている。そして、一次孔が閉じられる頃には、一次中隔の上の方に新しい孔である二次孔(卵円孔)が開く。

 

上記により、左心房と右心房との間は、行き来できる状態のままになる。

 

一次中隔の右側からは、二次中隔が形成される。二次中隔によって、二次孔(卵円孔)がおおわれる。しかしこのときも、左心房と右心房との間は、まだ行き来できる状態が保たれている。

 

そして生まれた後、一次中隔と二次中隔とがくっ付く(癒合)。それによって、心房中隔が完成される。

 

上記のように、生まれた後に閉じるはずの二次孔(卵円孔)が、閉じずに開いたままになる状態が、心房中隔欠損症ということになる。

 

・心房中隔欠損症の病態
心房内にある血液は、「心房中隔に開いている孔」を通して、左心房から右心房へと送られる。

 

動脈血が、肺から左心房へと帰ってきたとき、その動脈血は、心房中隔に開いている孔を通って右心房へ送られる。そして、右心房から再び肺へと、意味もなく送られてしまう。

 

・心房中隔欠損症の症状
心房中隔欠損症の症状は、青年期を迎えるまで現れないことが多い。心房中隔に開いている孔が大きい場合には、動いたときに息切れを起こすなどの症状が現れる。

 

 

 心室中隔欠損症(VSD)
心室中隔に穴が開いており、左心室と右心室との間で行き来できる状態のことを心室中隔欠損症(VSD)という。

 

・心室の発生
胎児期における初期の段階では、心室が左右に分かれておらず、1つの内腔になっている。

 

その後、心臓の壁から筋肉がふくらみ、筋性中隔が形成される。そして、筋性中隔は心内膜の床の方向へと成長し、筋性中隔と心内膜の床との間がふさがる(癒合する)。

 

上記のときは、左心室と右心室との間に孔があり、左心室と右心室との間が行き来できる状態となっている。

 

上記の後に、膜様中隔というものが、心内膜の床から発生する。左心室と右心室との間に開いていた孔は、膜様中隔によって閉じられる。このようにして、心室中隔が完成となる。

 

・心室中隔欠損症の発病
心室中隔欠損症のほとんどは、心室中隔の上部にあたる膜様部が、うまく発生しなかった場合に起こるものとされる。

 

・心室中隔欠損症の病態
心質内の内圧の差によって、血液が、左心室から「心室中隔に開いている孔」を通って、右心室へと入る。そして、強い圧力によって、血液が大量に右心室から肺動脈へと送られる。

 

上記により、肺動脈の血圧が高まった状態になる。この状態を肺高血圧症という。

 

肺で高血圧の状態が進んでいる場合、右心室の圧力が強まる。それにより、先程とは反対に、血液が右心室から心室中隔に開いている孔を通って、左心室へと入る。

 

上記の状態のことをアイゼンメンガー・コンプレックス(アイゼンメンガー・コンプレックス症候群)という。アイゼンメンガー・コンプレックスにより、左心室と右心室はそれぞれ肥大を起こす。

 

・心室中隔欠損症の症状
血液が、左心室から「心室中隔に開いている孔」を通って右心室へと入る場合、静脈を流れる血液(静脈血)は、ガス交換をされずに体循環へと進むことになる。これにより、チアノーゼが引き起こされる。

 

また、チアノーゼ以外に起こる症状には、太鼓のばち状の指、赤血球増加があげられる。

 

・心室中隔欠損症の治療
心室中隔欠損症のうち、心房中隔に開いている孔のサイズが小さめであれば、特に問題にはならないとされる。しかし、心房中隔に開いている孔を大量の血液が通る場合、その孔を閉じる必要がある。

 

 

 ファロー四徴症(T/F)
心室中隔の欠損、心室中隔に大動脈弁口が乗っている状態(大動脈騎乗)、右心室の肥大、肺動脈の狭窄をすべて発病している状態のことをファロー四徴症(T/F)という。

 

・ファロー四徴症の病態
ファロー四徴症の場合、心室中隔に大動脈弁口が乗った状態である大動脈騎乗に合わせて、右室の流出路と肺動脈がそれぞれ狭くなる。これにより、肺の血液量が少ない状態になる。

 

右心室に含まれる静脈血は、心室中隔の欠損部分を通って左心室へと進む。そして、左心室から体循環(大循環)へと送られる。こうした結果、チアノーゼ、太鼓のばち状の指、赤血球の増加が引き起こされる。