胃がんの進行・組織型・転移
胃粘膜で生じる悪性腫瘍のことを胃がんという。胃がんは、とくに幽門前庭部の小彎(しょうわん)側で起こることが多い。
胃がんの進行での分類
胃がんを進行の度合いで分ける場合、早期胃がんと進行胃がんとに分類される。
早期胃がん
胃壁の内部での腫瘍の拡大が、粘膜固有層まで及ぶか、粘膜下層の内部まで及ぶものを早期胃がんという。
早期胃がんは、粘膜におけるがんの見た目から、T型(隆起型)、U型、V型(陥凹型:かんおうがた)の3つに分けられる。また、これらの型の分類は、それぞれ単独で示される、それぞれの型を組み合わせて示される場合もある。
・T型(隆起型)
粘膜の面から、がんがかなりの大きさでもり上がっているものがT型である。
・U型
U型の場合、Ua型(表面隆起型)、Ub型(表面平坦型)、Uc型(表面陥凹型)の3つの型に分けられる。
・Ua型(表面隆起型)
粘膜の面から、がんがわずかにもり上がっているものがUa型である。
・Ub型(表面平坦型)
粘膜の面とがんとが、同じ高さになっているものがUb型である。
・Uc型(表面陥凹型)
粘膜の面に比べて、がんがわずかにへこんでいるものがUc型である。
・V型(陥凹型)
胃壁にて潰瘍が生じているものがV型である。
進行胃がん
がんの浸潤が、固有筋層の下の方にまで進むものを進行胃がんという。
進行胃がんの見た目での分け方として、ボールマンの分類がある。ボールマンの分類では、進行胃がんは1型(腫瘤型)、2型(潰瘍限局型)、3型(潰瘍浸潤型)、4型(びまん浸潤型)の4つの型に分けられる。
・1型(腫瘤型)
限定された範囲の中で、がんが盛り上がっているものが1型である。1型の場合、潰瘍の形成は確認されない。
・2型(潰瘍限局型)
1型のようながんのふくらみの中心部で、潰瘍化が起きてへこんでいるものが2型である。
・3型(潰瘍浸潤型)
一方では、2型のようにがんのふくらみの中心が潰瘍化してへこんだもので、もう一方では、間質の方に向かって、散らばったがん細胞が染み込むように広がるものが3型である。
・4型(びまん浸潤型)
散らばったがん細胞が染み込むように広がるものが4型である。
胃がんの組織型
胃がんには、いくつかの組織型に分類される。
腺がん
胃がんの場合に多い組織型として、腺がんがあげられる。腺がんには、高分化型腺がん、低分化型腺がん、印環細胞がんなどがある。
・高分化型腺がん
高分化型腺がんにあてはまるものには、管状腺がん、乳頭腺がんが存在する。進行がんである高分化型腺がんの場合、確認されるがんの見た目は、ボールマンの分類における1〜3型となっている。
・低分化型腺がん
進行がんである低分化型腺がんの場合、確認されるがんの見た目は、ボールマンの分類における3型か4型となっている。
・印環細胞がん
進行がんである印環細胞がんの場合、確認されるがんの見た目は、ボールマンの分類における3型か4型となっている。
胃がんの組織型ごとの発育
・高分化型腺がんの発育
高分化型腺がんの場合、周りの組織を押しながら、ふくれ上がるように発育していく。このことから、他の組織型に比べて、高分化型腺がんは発見されやすい。
・低分化型腺がんと印環細胞がんの発育
低分化型腺がんと印環細胞がんの場合、広い範囲に広がるように発育する(びまん性に発育する)。また、へこみやふくらみなどが確認されることが少ない。そのため、早期の発見ができないことが多い。
・形成性胃炎
低分化型腺がんが、胃壁の内部にて高度に進行している場合、胃が全体的に強めの萎縮を起こす。それにより、胃腔の内部が狭い状態になる。これを形成性胃炎という。
胃がんの転移
・リンパ節への転移
胃がんのうち、早期がんの約10%、進行がんの約80%がリンパ節へと転移する。
・ウィルヒョウ転移
左鎖骨上窩にあるリンパ節に、がんの転移が起こったものをウィルヒョウ転移という。
・シュニッツラー転移
胃がんなどのがんの播種(はしゅ)が、直腸膀胱窩や直腸子宮窩(ダグラス窩)で起こった場合、これをシュニッツラー転移という。
・クルーケンベルグ腫瘍
胃がんなどのがんが、卵巣へと転移してかたまりをつくった場合、それをクルーケンベルグ腫瘍という。
・胃がんの他の臓器への転移
胃がんが他の臓器に転移する場合、とくに肝臓に転移することが多い。これは、胃での静脈血が、門脈を介して肝臓へと送られるためである。
また、低分化型腺がんや印環細胞がんに比べて、高分化型腺がんの方が肝臓に転移することが多い。
胃がんの発生
胃がもつ、もともとの粘膜のことを固有胃粘膜という。固有胃粘膜は、年齢を重ねるごとに、腸の粘膜に似た腸上皮化生粘膜へと変わっていく。
・固有胃粘膜での発生が多いがん
固有胃粘膜で発生するがんは、低分化型腺がんや印環細胞がんであることが多い。
・腸上皮化生粘膜での発生が多いがん
腸上皮化生粘膜で発生するがんは、高分化型腺がんであることが多い。
胃がんの治療
胃がんの治療に有効とされるものには、外科的療法があげられる。胃がんでの外科的療法には、胃の切除、リンパ節の郭清がある。外科的療法の場合、予後が良い。
※郭清 : がんなどの病巣を取り除くだけでなく、将来、病変が進行する疑いのある組織まで取り除くこと
外科的療法ができないときには、放射線治療、抗がん剤などでの薬物療法が行われる場合がある。この場合、予後が良くないことが多い。
・胃がんの再発
胃がんが再発を起こす場合、リンパ節、肝臓、腹腔などでがんが再発する。
・胃がんの早期発見
胃がんを早期発見できれば、根治手術(その病気を完全に治すための手術)をすることで、予後が良くなる。
また、年齢が40代に入った場合には、胃がんの早期発見のために、最低でも2年に一度は胃がんの検診を受けるた方が良い。