腸の構造と疾患、腹膜炎の症状

腸の構造
胃と腸との境目の部分を、幽門という。幽門から下側は、小腸(十二指腸→空腸→回腸)→大腸(盲腸→上行結腸→横行結腸→下行結腸→S状結腸→直腸)→肛門管の順番で続いている。

 

 腸管の働き
腸管に送られた食物は、消化液によって分解される。また、栄養素と水分の吸収が腸管で行われる。

 

 

腸における疾患

 

 クローン病
腸管における、原因がわからない慢性炎症性疾患として、クローン病がある。クローン病の特徴として、腸管にて縦に長い潰瘍をつくることがあげられる。また、クローン病は、回腸の末端部や大腸で起こることが多い。

 

クローン病の場合、腸管の壁の層すべてに、それぞれ炎症性細胞の浸潤と、線維化が起こる。また、肉芽腫がつくられることもある。クローン病は、男性に起こることが多い傾向にある。

 

・クローン病の症状
クローン病では多くの場合、下痢や腹痛といった症状が引き起こされる。また、クローン病の症状に合わせて、腸管での腫瘍や痔ろうなどが起こることがある。

 

・クローン病の治療
クローン病の治療法としては、腸切除などの外科的治療、薬剤の使用などの内科的治療があげられる。内科的治療の場合、クローン病の治癒はあまり期待できない。

 

また、脂肪の少ない食事の習慣を身につけ、クローン病が悪化しないようにするのが大切である。

 

 

 大腸がん
腸におけるがんの大部分が、大腸がんとなっている。大腸がんのうち、とくに多いものとして、直腸がん、S状結腸がんがあげられる。大腸がんでは、腸管の内腔で腫瘍がふくらむように増殖を起こす。

 

・大腸がんの症状
大腸がんの場合、発病の初期には自覚症状がない。また、大腸がんの初発症状として、排便障害、下血(げけつ:血液が肛門から排出されること)があげられる。

 

大腸がんにおける排便障害は、がんの発生で腸管が狭くなるなどによって起こる。大腸がんにおける下血は、がんの病巣からの出血によって起こる。

 

・大腸がんの転移
大腸がんの場合、肝臓や、がんの周りにあるリンパ節から初めに転移巣がつくられる。

 

・大腸がんの組織型
大腸がんが示す組織型は、高分化型腺がんであることが多い。その一方で、腫瘍細胞での粘液の生成が目立つことにより、確認される組織型が粘液性腺がんとなる場合もある。

 

・デュークスの分類
大腸がんの進行の度合いごとの分け方として、デュークスの分類がある。デュークスの分類では、大腸がんの進行の度合いがA(デュークスA)、B(デュークスB)、C(デュークスC)の3つに分けられる。

 

 ・A(デュークスA)
固有筋層内までで、がんが止まっているものがAとなっている。

 

 ・B(デュークスB)
がんが、固有筋層から突出しているものの、リンパ節へと転移していないものがBとなっている。

 

 ・C(デュークスC)
がんが、リンパ節に転移しているものがCとなっている。

 

・大腸がんの治療
大腸がんの治療法としては、手術による切除があげられる。また、郭清(かくせい)が行われる場合もある。

 

 ※郭清(かくせい) : がんなどの病変の切除だけでなく、その病変の周りの組織も切除すること

 

 

 潰瘍性大腸炎
潰瘍性の病変のうち、直腸から結腸までの範囲に発生するものを潰瘍性大腸炎という。

 

潰瘍性大腸炎では、まず、直腸、もしくは結腸の下側の方の部分から潰瘍性の病変が生じる。そして、結腸の方へと上るように病変が広がる。また、潰瘍性大腸炎における組織の欠損は、粘膜下組織までにとどまる。

 

潰瘍性大腸炎を引き起こした患者の場合、潰瘍性大腸炎を発病してから10年以上経った後に、大腸がんを引き起こすことがある

 

・潰瘍性大腸炎の症状
潰瘍性大腸炎の場合に起こる症状として、腹痛、下痢、血便などがあげられる。

 

・潰瘍性大腸炎の治療
潰瘍性大腸炎の治療法として、薬物療法、結腸の全摘出などの外科的治療、食事療法、安静があげられる。

 

 

 大腸ポリープ
大腸ポリープは、直腸やS状結腸につくられることが多い。

 

・腺腫
腸の粘膜の上皮細胞にて生じる良性腫瘍のことを腺腫という。腺腫は、腸の粘膜から腸管の中心の方向へとふくらみをつくる。

 

・ポリープ
一部の限られた範囲で起こる、粘膜のふくらみのことをポリープという。ポリープの場合、良性のポリープと悪性のポリープとが存在する。

 

・家族性大腸腺腫症(家族性大腸ポリポーシス)
大腸の粘膜にて数多くのポリープが生じる遺伝性疾患として、家族性大腸腺腫症(家族性大腸ポリポーシス)がある。家族性大腸腺腫症の場合、大腸がんを発病することが多い。

 

・大腸ポリープの症状
大腸ポリープの場合、症状として出血が起こる。また、血便が起こることがある。

 

・大腸ポリープの治療
大腸ポリープの治療法として、病変の切除などの外科的治療があげられる。

 

 

 イレウス(腸閉塞症)
特定の原因で、腸内を通る物が肛門の方へと進めなくなり、それによって、便やガスなどの排出の停止、嘔吐、腹痛などの症状が引き起こされた状態をイレウス(腸閉塞症)という。

 

イレウスは原因によって、機能的イレウス機械的イレウスとに分類される。

 

・機能的イレウス
腸管を支配する神経や血管に起こる異常により、機能的イレウスが発生する。機能的イレウスには、けいれん性イレウス麻痺性イレウスがある。それぞれの治療法として、薬剤の使用などがあげられる。

 

・機械的イレウス
腸管の閉塞が、がんによって引き起こされることで、機械的イレウスが発生する。機械的イレウスには、単純性イレウス絞扼性(こうやくせい)イレウスがある。

 

 ・単純性イレウス
単純イレウスの場合、血液の流れが妨げられていない。単純性イレウスの治療法としては、保存的治療があげられる。

 

 ・絞扼性(こうやくせい)イレウス
絞扼性イレウスの場合、腸管のねじれによって、血液の流れが妨げられている。絞扼性イレウスの治療法としては、開腹手術があげられる。

 

 

腹膜炎
炎症が広がる、腹膜が外傷を負うなどの場合に、腹膜炎が引き起こされる。腹膜炎は、病巣の進行の違いによって分けられ、限局性腹膜炎びまん性腹膜炎(汎発性腹膜炎)とに分類される。

 

また、腹膜炎には、急性の腹膜炎慢性の腹膜炎がん性腹膜炎がある。

 

 急性の腹膜炎
急性の腹膜炎の場合、強い腹痛、白血球の増加、腹部の緊張といった症状が起こる。また、急性の腹膜炎の治療法として、膿の排出や病巣の切除といった外科的治療があげられる。

 

 慢性の腹膜炎
慢性の腹膜炎のうち、その大部分が結核が原因になって生じたものとされる。慢性の腹膜炎の治療法として、薬物療法があげられる。

 

 がん性腹膜炎
末期がんの患者の腹膜では、がん性腹膜炎が確認されることがある。がん性腹膜炎の場合、腹水が徐々に溜め込まれていく。