機械的消化と化学的消化の違い

機械的消化
食事の際には、口に含んだ食べ物を歯でかむ(咀嚼:そしゃく)、それによって食べ物が砕かれる。砕かれた食べ物は、歯と舌によって唾液(だえき)と混ざる。その後、唾液と混ざった食べ物を飲み込む(嚥下:えんげ)ことで、その食べ物が食道を通して胃の中に入る。

 

胃の中に入った食べ物は、胃が行う蠕動(ぜんどう)運動によって、さらに細かくなる。このようにして、胃に入った食べ物は、食塊(しょくかい)という状態に変わる。そして食塊は、胃の中から十二指腸の中へと運ばれる。

 

十二指腸の中に入った食塊は、小腸が行う蠕動運動によって、下部へと運ばれていく。

 

上記のように、食べ物を歯でかみ砕く、食べ物を胃の中で混ぜる、食べ物を蠕動運動で運ぶなどの、物理的な力で行われる消化のことを機械的消化という。

 

 

化学的消化

 

 口腔での化学的消化
唾液の中には、アミラーゼという消化酵素がある(これを唾液アミラーゼともいう)。口に含まれた食べ物が、歯でかみ砕かれる場合、その食べ物に唾液アミラーゼが作用する。

 

唾液アミラーゼの作用により、食べ物に含まれる糖質の消化が行われる。また、食べ物の温度や、その食べ物が口腔内にどのくらいとどまっているかなどによって、唾液アミラーゼによる消化がどこまで進行するかが変わる。

 

口に含んだ食べ物が冷たかったり、口に含んだ食べ物をあまりかまずに飲んだ場合、口腔内での食べ物の消化がほとんど進行しない。さらに、しっかりとした消化は、その食べ物が胃に入ってからとなる。

 

口腔から食道を通して、食べ物が胃の中に入る。

 

 胃での化学的消化
胃の内腔では、空腹時であっても胃液が分泌される。このときの胃液の分泌は、はがれ落ちた細胞などを消化するために行われる。

 

空腹時では、胃の内腔のpHは酸性に傾いている。また、胃の内腔のpHは、胃の中に入った食べ物のpHに、徐々に影響される。そのため、胃の中に、pHが中性である食べ物が入っていくことで、胃の内腔のpHが中性に向かう

 

食事が終わってから約30分までは、胃の中のpHが中性になっている。この間、口腔内で食べ物に混ざった唾液アミラーゼは、口腔内だけでなく、胃の中でも糖質を消化する

 

のどに存在する細胞からは、リンギュアルリパーゼ(舌・咽頭リパーゼ)が分泌される。また、胃の中で分泌される胃液には、胃リパーゼが含まれている。これらのリパーゼによって、胃の中で脂肪の消化が行なわれる。

 

胃の中での胃液の分泌が強まることで、胃の中のpHは強い酸性を示すようになっていく。それにより、唾液アミラーゼによる糖質の消化と、リンギュアルリパーゼ(舌・咽頭リパーゼ)による脂肪の消化は、それぞれ止まる

 

タンパク質を消化するものに、ペプシンがある。胃の中のpHが、酸性の状態に至った場合、ペプシンによってタンパク質が消化される。胃の中でのタンパク質の消化は、わずかな消化にとどまる。

 

胃の中に入った食べ物は、食塊へと変わり、十二指腸の中へと運ばれる。そして十二指腸の中では、糖質・脂肪・タンパク質のそれぞれが、よりしっかりと消化される。

 

 

 十二指腸からの化学的消化
食塊が十二指腸の中に入り込むと、食塊と膵液(すいえき)とが混ざり合う。

 

膵液には、アルカリ性の炭酸水素ナトリウムが含まれる。そのため、膵液のpHはアルカリ性になっている。さらに、膵液にはさまざまな消化酵素も含まれている

 

・糖質(デンプンなど)の消化
消化されなかったデンプンなどの糖質は、膵液に含まれる膵アミラーゼによって消化される。デンプンが消化されることで、単糖類のグルコースや、二糖類のマルトースができる。

 

・脂質のうちの脂肪の消化
脂質は水に溶けない性質をもつ。また、脂質を消化するためには、その脂質の水溶化が必要となる。そして、脂質の水溶化を行うものとして、肝臓でつくられる胆汁がある。

 

十二指腸腔にて、膵液とともに胆汁も分泌される。そして、消化されなかった脂質は、胆汁によって水溶化される。この脂質の水溶化を乳化と呼ぶ。乳化した脂質のうちの脂肪は、膵液に含まれる膵リパーゼによって消化される。

 

脂肪が消化されることで、脂肪酸ジグリセリドモノグリセリドができる。

 

・タンパク質の消化
消化されなかったタンパク質は、膵液に含まれるカルボキシペプチダーゼトリプシンキモトリプシンによって消化される。

 

また、小腸粘膜からはがれ落ちた細胞には、プロテアーゼが含まれている。このプロテアーゼも、少しだが、タンパク質の消化を行う。

 

タンパク質が消化されることで、ジペプチドトリペプチドアミノ酸ができる。

 

 管腔内消化と化学的消化
口腔の中から小腸腔の中までに、それぞれの場所で行われる消化すべてを合わせて管腔内消化という。

 

管腔内消化のうち、唾液(だえき)や膵液(すいえき)などに含まれる酵素によって行われる消化のことを化学的消化という。化学的消化には、物理的な力による消化は含まれない。