解糖系、ピルビン酸、乳酸

解糖系
解糖系は、グルコース(糖)をピルビン酸乳酸に分解し、ATP(アデノシン三リン酸)の生成につなげる1番最初の反応系である。

 

グルコースが解糖系で分解されることを解糖という。

 

解糖系では、グルコース1つにつき、結果的に2つのATPを得られる。

 

大部分の細胞や組織では、解糖系を通ったグルコースがピルビン酸に変わる。そのピルビン酸は、ミトコンドリアに送られて代謝を受ける。このとき、ミトコンドリア内で行われるピルビン酸の代謝には、酸素が不可欠である。

 

一方、赤血球などのミトコンドリアがない場所では、ミトコンドリア内で行なわれるピルビン酸の代謝が行われない。この場合、ピルビン酸は乳酸となって、細胞の外へと排出される。

 

また、長時間の激しい運動を行うなどで、酸素の筋肉への供給が追いつかなくなる場合、ミトコンドリアの中での酸素を用いるピルビン酸代謝がおこりにくくなる。その結果、解糖が乳酸を生じるところまで進むことが増える。

 

 解糖系の反応経路
解糖系の反応経路は、以下のようになっている。また、逆方向の矢印は、作用する酵素が逆方向に反応できることを表す。

 

 

1番目:グルコースがHK(ヘキソキナーゼ)によって、ATP(アデノシン三リン酸)のリン酸基を移され、G6P(グルコース6-リン酸)に変化する。ATPはリン酸基を1つ失うことによってADP(アデノシン二リン酸)となる。

 

また、HK(ヘキソキナーゼ)は、解糖系における反応の速度を調節する律速酵素である。この酵素は、逆方向には反応できない。

 

2番目:G6P(グルコース6-リン酸)がGPI(グルコース6-リン酸イソメラーゼ)によって、F6P(フルクトース6-リン酸)に変化する。

 

3番目:F6P(フルクトース6-リン酸)がPFK(ホスホフルクトキナーゼ)によって、ATPのリン酸基を移され、FBP(フルクトース1,6-二リン酸)に変化する。PFK(ホスホフルクトキナーゼ)は、解糖系での律速酵素になっている。この酵素は、逆方向には反応できない。

 

4番目:FBP(フルクトース1,6-二リン酸)がアルドラーゼによって、GAP(グリセルアルデヒド3-リン酸)とDHAP(ジヒドロキシアセトンリン酸)に分解される。

 

5番目:DHAP(ジヒドロキシアセトンリン酸)がトリオースリン酸イソメラーゼによって、GAP(グリセルアルデヒド3-リン酸)に変化する。

 

6番目:GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素)によって、GAP(グリセルアルデヒド3-リン酸)にリン酸基の付与とアルデヒド基の酸化が行なわれ、1.3BPG(1,3-ビスホスホグリセリン酸)に変化する。

 

この反応でつくられたNADH+H⁺は、乳酸まで解糖が進む場合に「11番目」の反応で使われる。

 

7番目:1,3BPGが、PGK(ホスホグリセリン酸キナーゼ)によってADPにリン酸基を1つ移され(リン酸化)、3PG(3-ホスホグリセリン酸)に変化する。リン酸基を1つ追加されたADPはATPに変化する。

 

8番目:3PG(3-ホスホグリセリン酸)がホスホグリセリン酸ムターゼによって、2PG(2-ホスホグリセリン酸)に変化する。

 

9番目:2PG(2-ホスホグリセリン酸)が、エノラーゼによって水分子を外され、PEP(ホスホエノールピルビン酸)に変化する。

 

10番目:PEP(ホスホエノールピルビン酸)が、PK(ピルビン酸キナーゼ)によってADPにリン酸基を1つ移され、ピルビン酸に変化する。PK(ピルビン酸キナーゼ)は、解糖系での3つめの律速酵素である。この酵素は、逆方向には反応できない

 

11番目:ピルビン酸が、LDH(乳酸脱水素酵素)のはたらきでNADH+H+による還元を受けてL-乳酸に変化する。

 

・好気的状態、嫌気的状態
細胞に酸素が十分供給できる好気的状態では、ほとんどのグルコースが解糖系の反応経路を進むことができる。

 

逆に、無酸素運動などによって細胞にほとんど酸素を供給できない嫌気的状態になると、グルコース1つあたり2つの乳酸になる。乳酸は体に残らずに外に出てしまうので、それ以上反応は行なわれない。

 

ミトコンドリアのない赤血球でも、嫌気的状態と同じ反応がおこる。