脂肪酸の分解、β酸化、ケトン体
脂肪酸の分解
食後から2,3時間ほど経つと、糖(グルコース)が血液中に送られる量が少なくなり、中性脂肪(トリグリセリド)の加水分解が行なわれるようになる。これによって、脂肪酸が血液中に流れ込み、エネルギー源としてさまざまな組織で利用されるようになる。
・アシルCoA
ミトコンドリア内で、脂肪酸の分解は行なわれる。最初に、ミトコンドリアの外膜に存在するアシルCoA合成酵素の作用で、脂肪酸がアシルCoAとなる。
アシルCoAは、ミトコンドリアの内膜に存在するカルニチンアシル基転移酵素Ⅰという酵素のはたらきで、カルニチンと反応してアシルカルニチンに変化する。
アシルカルニチンは、カルニチン-アシルカルニチントランスロカーゼというミトコンドリアの内膜にあるタンパク質よって、ミトコンドリア内膜を通過してミトコンドリアマトリックスに入る。その際、カルニチンが入れ替わりでミトコンドリアの内膜に入る。
ミトコンドリアマトリックスに入ったアシルカルニチンは、カルニチンアシル基転移酵素Ⅱというミトコンドリアの内膜にある酵素のはたらきで、再びアシルCoAになる。
β酸化
ミトコンドリアマトリックス内に移動したアシルCoAは、β酸化という反応を受ける。β酸化の反応は、1~4までの4つの反応が順番におこる。
1.FADを補酵素とした脱水素反応
2.水を取り付ける反応
3.NADを補酵素とした脱水素反応
4.アセチルCoAが1つ遊離し、最初のアシルCoAよりも炭素が2つ減った状態のアシルCoAができる。
そして、炭素数が2つ少ないアシルCoAが、さらにβ酸化を受けることで、もう1つアセチルCoAを生成する。この順番で反応がくり返しおこる。
ケトン体
アセト酢酸・アセトン・3-ヒドロキシ酪酸の3つをまとめてケトン体という。ケトン体は、肝臓や腎臓などでおもにつくられるもので、β酸化によってできたアセチルCoAの中で余ったものが、ケトン体生成の材料となる。
飢餓や糖尿病などの理由でグルコースが十分に供給できない場合、脂肪酸の分解が増えてアセチルCoAの数が多くなり、アセチルCoAが余り気味になる。それによって、ケトン体がつくられることも増えることになる。
ケトン体の生成の経路を図で示した。
生成されて血液中に送られたケトン体のうち、アセト酢酸と3-ヒドロキシ酪酸は、特定の筋肉や脳・腎臓などに送られてエネルギー源として利用される。
アセト酢酸と3-ヒドロキシ酪酸がエネルギー源となる際には、それぞれアセチルCoAに戻り、クエン酸回路・電子伝達系を通ってATPを生成する。
一方、アセトンは、そのほとんどが呼吸によって排出されたり、尿に混じって排泄されることになるため、体内で使われることが少ない。
・ケトーシス(ケトン血症)
飢餓状態や糖尿病などの場合には、アセチルCoAからケトン体をつくる反応が亢進される。それにより、血中のケトン体の量が多くなる。この状態をケトーシス(ケトン血症)という。ケトーシスでは、ケトン体と多くの水を尿として排泄するため、脱水症状に気をつける必要がある。
・ケトアシドーシス
ケトン体のうち、アセト酢酸と3-ヒドロキシ酪酸はカルボン酸であり、ケトーシスの状態では、血液のpHが正常なときよりも酸性側にかたむくアシドーシスになる場合がある。
ケトーシスとアシドーシスの両方の状態になっていることを、ケトアシドーシスという。