タンパク質の消化・吸収、チモーゲン

ヒトがもつタンパク質のうち、1日あたり約2%が分解されてアミノ酸となる。そして、その中の約20~25%がエネルギー源に変えられて利用される。一方、残りの約75~80%は、タンパク質の合成に再び用いられる。

 

また、アミノ酸は、エネルギー源以外に特定の化合物の材料として利用される。

 

タンパク質の消化に関わる酵素
タンパク質の消化の際にはたらく酵素には、エンドペプチダーゼエキソペプチダーゼの2種類がある。

 

エンドペプチダーゼは、ペプチド鎖の中にあるペプチド結合の加水分解を行う。エンドペプチダーゼにあてはまる酵素には、ペプシントリプシンキモトリプシンエラスターゼがある。

 

エキソペプチダーゼは、ペプチド鎖の末端部分から、1つずつアミノ酸を加水分解する。エキソペプチダーゼにあてはまる酵素には、カルボキシペプチダーゼAカルボキシペプチダーゼBがある。

 

 それぞれの消化酵素のはたらきとチモーゲン
それぞれの消化酵素のはたらきと、その酵素がつくられる前の状態であり酵素としての活性をもたないチモーゲン(酵素前駆体)について解説する。

 

・ペプシン
ペプシンは、疎水性アミノ酸残基などのアミノ基を切断できる酵素である。ペプシンのチモーゲンの状態はペプシノーゲンであり、ペプシンによって活性化される。

 

ペプシノーゲンは胃でつくられるチモーゲンである。ペプシノーゲンは、胃で生成された後、胃腔に分泌される。

 

・トリプシン
トリプシンは、塩基性アミノ酸残基のカルボキシル基側を切断する酵素である。トリプシンのチモーゲンの状態はトリプシノーゲンであり、トリプシンかエンテロペプチダーゼによって活性化される。

 

トリプシンは膵臓でつくられるチモーゲンである。トリプシンは、膵臓(すい臓)で生成された後に膵液(すい液)の成分になる。その後、十二指腸に分泌される。

 

・キモトリプシン
キモトリプシンは、芳香族アミノ酸残基のカルボキシル基側を切断する酵素である。キモトリプシンのチモーゲンの状態はキモトリプシノーゲンであり、トリプシンとキモトリプシンの両方のはたらきで活性化される。

 

キモトリプシンは膵臓でつくられるチモーゲンである。キモトリプシンは、膵臓(すい臓)で生成された後で、膵液(すい液)の成分になる。その後、十二指腸へと分泌される。

 

・エラスターゼ
エラスターゼは、結合組織の繊維状タンパク質であるエラスチンを加水分解する酵素である。エラスターゼのチモーゲンの状態はプロエラスターゼであり、トリプシンによって活性化される。

 

エラスターゼは膵臓でつくられるチモーゲンである。エラスターゼは、膵臓(すい臓)で生成された後、膵液(すい液)の成分になる。その後で、十二指腸に分泌される。

 

・カルボキシペプチダーゼA
カルボキシペプチダーゼAは、酸性アミノ酸と中性アミノ酸をC末端から1つずつ切断する酵素である。カルボキシペプチダーゼAのチモーゲンの状態はプロカルボキシペプチダーゼAであり、トリプシンによって活性化される。

 

カルボキシペプチダーゼAは膵臓でつくられるチモーゲンである。カルボキシペプチダーゼAは、膵臓(すい臓)で生成されて、膵液(すい液)の成分になる。その後で、十二指腸に分泌される。

 

・カルボキシペプチダーゼB
カルボキシペプチダーゼBは、塩基性アミノ酸をC末端から1つずつ切断する酵素である。カルボキシペプチダーゼBのチモーゲンの状態はプロカルボキシペプチダーゼBであり、トリプシンによって活性化される。

 

カルボキシペプチダーゼBは膵臓でつくられるチモーゲンである。カルボキシペプチダーゼBは、膵臓(すい臓)で生成された後に膵液(すい液)の成分になる。その後、十二指腸に分泌される。

 

タンパク質の消化
食事などで摂取したタンパク質は、まず胃に入り、ペプシンによって消化されて塩酸のはたらきで酸性になる。

 

その後、十二指腸に入って弱アルカリ性の膵液で中和され、膵液に含まれる酵素(上記のトリプシン~カルボキシペプチダーゼB)によって再び消化される。

 

ここまでの過程で、消化されたタンパク質の約2/3が、2~6個のアミノ酸をもつペプチドになり、あとの約1/3が遊離アミノ酸になる。

 

 消化を終えたタンパク質の吸収
小腸内の細胞膜にある輸送担体を通して、小腸内に存在する遊離アミノ酸が吸収される。

 

一部のペプチドは、ペプチドのN末端から1つずつアミノ基を切り離すアミノペプチダーゼによって加水分解されて、小型のペプチドや遊離アミノ酸に変化する。それらは、小腸内にあるペプチドの輸送担体を通して吸収される。

 

また、ペプチドのうち、ジペプチドトリペプチドは、アミノペプチダーゼの反応を受けずにそのまま吸収される。

 

ペプチドのうち、上皮細胞に吸収されたものは、細胞膜のものとは異なるアミノペプチダーゼの反応によって、遊離アミノ酸に変化する。遊離アミノ酸のうち上皮細胞の中にあるものは、門脈に移動して体全体に送られることになる。